企業の水リスク(18)気候変動は動物や植物にも影響を与える

気候変動の生きものへの影響

気候変動の影響は当然ながら、水だけではなく自然環境すべてに出ます。

昆虫はすでに敏感に反応しており、これまで関東地方では生息していなかったチョウが2000年代になって急に見つかっています。たとえば、日本に生息していなかったクロマダラソテツシジミは、90年代に沖縄で発見され、西日本を中心に生息域を拡大してきたチョウです。

一方で、寒い地方や高山などに分布する種には絶滅が危ぶまれるものもあり、チョウの世界だけを見ても温暖化の影響は計り知れません。

食料不足を加速させる

農作物や漁業は、天候に大きく影響を受けるため、地球温暖化が進むと、食料生産に大きな悪影響が出ます。世界中ではたくさんの人が飢餓に苦しんでおり、このような人たちはさらに追いつめられます。

日本では、リンゴ栽培に適する地域が北上し、60年後には本州の大半が栽培不適地になる可能性のあることが、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構「果樹研究所」の研究でわかりました。

リンゴ栽培に適する年平均気温は7 ~ 13℃で、現在は北海道の北部や東部、九州・四国の平野部を除く広い地域があてはまります。しかし、2060年に平均気温が3℃上昇すると、リンゴ栽培適地は東北地方より北になります。

すでに温暖化による着色障害が次々と報告されています。リンゴを赤くする成分「アントシアニン」が高温では生成されなくなることが原因です。

一方、温州ミカンの適地は、現在は南関東以南の太平洋側ですが、2060年代には南東北や日本海沿岸に北上します。

気候変動は海流にも影響します。

 

東日本沿岸まで南下している親潮(寒流「千島海流」の別名)が、2070年ごろには日本沿岸に達しなくなる可能性があることが、気象庁気象研究所のシミュレーションで明らかになりました。

北海道や東北地方の東方海上の年平均海面水温が現在より4 ~5℃上昇することが原因ですが、サケやニシンが取れなくなるなど水産業にも影響を与えます。この親潮と黒潮と呼ばれる暖流「日本海流」とぶつかる三陸沖の「潮目」付近はよい漁場として知られていますが、近い将来。大きな変化が起きるでしょう。

さらに大きいのが、ブナ林への影響です。日本には現在、約2万3000㎢のブナ林があり、クマやカモシカなどの大型鳥獣をはじめ、さまざまな動物や昆虫が生息しています。また、いろいろな種類の草や樹木、キノコなどが息づいており、固有の生態系を形作っています。

しかしながら温暖化の進行にともなってブナ林が失われつつあり、今世紀末には1990年に比べて最大で約7割、対策をとった場合でも35%は減ると予測されています。ブナ林が減ることで生物多様性が失われるほか、保水機能や浄水機能が落ちます。この被害コストは、今世紀末に最大で年間2300億円を超えると試算されています。

世界的にも森林の消滅や生物種の絶滅などが予測されていて、50年後にはアマゾンの森林は砂漠化するとの予測もあります(イギリス政府報告)。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所