企業の水リスク(16)気候変動がもたらす水への影響。 洪水や干ばつが頻発することに

水の多い地域はさらに多く

気候変動はいろいろなかたちで現れますが、私たちが感じやすいのは、水のすがたを変えるということです。具体的にいえば、氷を融かしたり、雨の降り方を変えるため、洪水や水不足に悩まされる地域が増えます。

もともと水の多い地域ではこんなことが起きます。水は、気温が高いほど速く蒸発します。そのため気温が上がると、空気中の水蒸気の量が増え、湿度が高くなります。湿度が高くなると、雨が降りやすくなり、強い雨が頻繁に降るので、洪水が多くなります。

日本では自然災害につながる可能性のある、1日当たりの降水量が100㎜以上の大雨の降る日が増えています。このように日本だけでなく東アジアの広い範囲で雨が増加する傾向にあります。

一方、もともと水の少ない場所ではこんなことが起きます。地表の温度が上がることによって、土に含まれている水分が蒸発しやすくなるため、さらに乾燥がすすみ、水不足や干ばつが起こりやすくなります。

ヒマラヤでは、乾期に雪が少なく、雨期に雪が多いのが普通でしたが、10年前から乾期にも雪が降るようになり、数年前からは雨に変わりました。そのため氷河は融けて湖となってたまり、それが決壊して大洪水を引き起こします。そのたびに複数の集落が流されています。

チベット高原の永久凍土は融けはじめました。気温が上昇し、乾燥化が進み、水循環のバランスが崩れはじめました。雨量が減り、チベット高原の湿原は減少し、湿原を水源とする川の水量も激減しました。そして川沿いに暮らすおよそ30億人の生活に影響を与えはじめました。

とくに顕著なのが黄河でした。黄河の流れが渤海まで届かず、手前で途絶えてしてしまう断流現象は70年代からはじまりました。90年代以降は、断流の日数も期間も長くなりました。砂漠が広がり、砂嵐が吹き、穀物が栽培できなくなり、環境難民が移住を余儀なくされるケースもあります。

 

温暖化適応策を実施するEU

地球温暖化は防止する段階にはありません。温暖化を防止するための活動は継続しながら、温暖化してしまった地球にいかに適応するかを考える段階に入りました。

ヨーロッパでは、2013年の大洪水で120億ユーロ、日本円で約1.7兆円の損害が出ましたが、このレベルの洪水の頻度が、2050年までに1.5倍になるといわれています。そのため、洪水に備えて大規模な予算を組みはじめています。一方、日本での対応は遅れています。厳しい現実を受け止めて早めに手を打つべきです。

これまでの日本は、どんな台風が来ようと、大雨が降ろうと、普段どおりの生活ができるような国土整備を目指してきました。でも、そうしたインフラを整備する財政的な余裕は残念ながらもうありませんし、インフラを整備することでさらに地球に負荷をかける場合もあります。ですから、森林を整備して森の保水能力を上げる、過去に水害のあった土地は開発しないなど、なるべく低コストで、なおかつ地球に負荷をかけない方法で行う必要があるでしょう。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所