企業の水リスク(23)サプライチェーンでの水使用量のはかり方

CSR報告書に登場した水リスク

企業のCSR報告書のなかにも、水リスクについてふれるケースが増えてきました。利用できる水が限られる点や世界の水不足の問題認識を記載したうえで、自社のビジネスにおける水使用の特徴と水使用量の削減の取組みを説明していることもあります。

具体的に、水の再利用・循環利用を含む水使用量の削減に関する取り組み、排水負荷削減に関する取り組み、水源保全に関する取り組みななどを行っている会社もあります。

ですが海外の拠点や、サプライチェーンを意識している日本企業はまだ少ないでしょう。

自社が利用する原材料をつくる過程でつかわれる水のこともほとんど考えられていません。また、考えていても、原材料や部品の調達を商社にまかせていて、サプライチェーン上流のことが見えないケースもあります。

リーバイ・ストラウス社はライフサイクルで水使用を見る

海外企業の取り組みを紹介しましょう。
ジーンズで有名なアメリカのアパレル会社、リーバイ・ストラウス社は、バリューチェーン全体での水使用、製品のライフサイクルでの水使用を見ています。ライフサイクルというのは、製品の原料が誕生するところから、廃棄までです。たとえば、ジーンズのライフサイクルは、

綿花生産→生地生産→縫製→輸送・流通→着用→リサイクル→廃棄

となります。

この7段階に分けて環境負荷を低くしようとしていますが、水に関する重点項目は、「綿花生産」、「製造工程」、「着用」が中心です。綿花生産にはたくさんの水をつかいますし、工場でも加工に水をつかいます。さらに商品を販売したあとのことも考えています。ジーンズを買ったユーザーは、洗濯をします。その洗濯にかかる水のことを考えているのです。

具体的にどのような取り組みをしているかについては、このあとお話ししていきます。

コカ・コーラ社の水リスクの計り方

清涼飲料水メーカーのコカ・コーラ社は、水資源に関する報告書「THE WATER STEWARDSHIP AND REPLENISH REPORT」を開示しています。

この報告書には、「水需要の増加や品質のよい水の枯渇によってコストが増大し、それが営業利益に影響を与える」と、水リスクが明確に記されています。では、コカ・コーラ社は、どのように自社の水リスクを計ったのでしょうか。

まず、リスク評価のツールを独自に開発し、世界各地にある工場に水リスクに関する質問をしました。この質問は、6つの分野からなります。

(1)水を効率よくつかっているか?
(2)地域の排水基準を守っているか?
(3)水源の持続可能性は大丈夫か?
(4)水の供給施設の信頼性はあるか?
(5)地域社会や地元の競合他社はどういう状況にあるか?
(6)水の供給価格は現在いくらで、今後いくらになりそうか?

そして、回答結果を分析し、次のようにまとめています。

コカ・コーラ社の水への取り組みは、3つのRからなります。

3つのRというと、“Reduce”(減らす)、“Reuse”(再利用する)、“Recycle”(再生利用する)というのが一般的ですが、コカ・コーラ社が掲げるそれはちょっと違います。

“Reduce”(減らす)、“Reuse”(再利用する)は行っています。

“Reduce”(減らす)という点では、1ℓの飲料水を製造するのに必要な水の量の削減に取り組んでいます。

“Reuse”という点では、工場内で一度つかった水を再度利用しています。2009年の時点では、1790億ℓの排水を環境中に排出していましたが、水の利用効率を向上させています。

“Reuse”しても排水を0にすることはなかなかむずかしい。そこで、自然環境に排出する水質を、生きものが生息可能な水準まで浄化する目標を掲げ、自社基準をつくっています。2010年における達成率は94%です。

そして、3つ目のRは、“Recycle”ではなく、“Replenish”(再び満たす)です。

コカ・コーラ社は「水使用量の実質ゼロを目指す」といっています。そう聞くと、「水をいっさいつかわずにコーラをつくるの? そんなの無理でしょう」と思うかもしれませんが、ここに“Replenish”(再び満たす)が関係しています。“Replenish”(再び満たす)とは、製品をつくるためにくみ上げた地下水に相当する量の水を、再び地下に戻そうというのです。

企業活動に持続可能な水利用が求められるなかで、“Reduce”(減らす)、“Reuse”(再利用する)に加えて、“Replenish”(再び満たす)にも取り組みはじめたのでしょう。

ですが、“Replenish”(再び満たす)はまったく新しい考え方ではありません。企業の水リスク(37)「食と水との関係」でお話しする「涵養(かんよう)」(地表から地下に水を浸透させること)がこれに当たります。

涵養(かんよう)の方法はさまざまで、田んぼに水を張る、植林や間伐を行う、コンクリートの護岸でかこまれた川を自然に戻す、雨水浸透ますを設置するなどいろいろあります。地域に合った方法を選ぶとよいでしょう。

 

プーマ社は99.9%の水をサプライヤーに依存

スポーツ用品メーカーのプーマ社は、2011年に世界規模の環境損益計算書の発行を行いました。

これは、プーマ社の事業、関連するサプライチェーンによってもたらされる環境への影響を、金額換算して公表したものです。

水資源の使用状況も、プーマ社本体の事業だけでなく、1次から4次サプライヤーについて報告されています。

それを見ると、プーマ社本体の水使用量は、サプライチェーン全体の0.1%程度です。99.9%の水をサプライヤーがつかっています。

さらに、サプライヤーのなかでも、原材料の生産につかう水の量が全体の40%以上を占めていることがわかりました。

いったいどういうことかといえば、たとえばサッカーのスパイクには牛革をつかったものがあります。この牛を育てるのにたくさんの水をつかっているのです。

99.9%の水をサプライヤーがつかうというプーマ社のケースは極端なケースでしょう。原材料に家畜をつかっていること、製造の大部分を外部に委託しているなど、プーマ社の特徴が反映されています。

日本企業の例です。中期CSR計画の重点課題の1つに「水問題への対応」「水資源の確保」を掲げる富士フイルムは、ウォーターフットプリント(WFP)の算定ガイドラインを制定し、水の使用にともなう環境影響の見える化に着手しました。狙いは、原材料の調達から製品の使用、廃棄にいたるまで、水資源に配慮した製品開発を加速させること。製品ライフサイクル全体の「水消費量」を定量的に、かつワールドワイドに評価していきます。

積水化学は、国内外の全事業所の操業時における水リスクを把握します。事業の一環として行う考えで、環境中期計画の重点テーマの1つに据えました。事業所ごとに立地や取排水にともなう水リスクを把握し対策を実施。生物多様性の保全と事業機会の損失防止を図るねらいがあります。さらに次のステップとして、サプライチェーンにおける水リスク対策も視野に置いています。

どの企業でもサプライチェーンのなかで企業活動が行われており、上流にいけば、農畜産物生産や鉱物資源の採掘に行きつきます。ですからサプライチェーン全体での水使用量を計り、どこで水リスクが起きるかを把握しておくことが重要です。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所