企業の水リスク(30)ユーザーの水意識を高めて 水リスクを低くする
水利用の改善をうながす啓発活動
いくら企業が節水商品をつくっても、ユーザーが正しくつかわなければ、節水にはなりません。
ユニリーバ社の柔軟剤入り洗剤も、そうでした。発売してもベトナムの人たちの洗濯の仕方は変わりませんでした。すすぎの回数を減らしても洗剤がしっかり落ちるのか確信がもてなかったのです。そのため洗濯につかう水の量も減りませんでした。
そこでホーチミン市内のスタジアムでデモンストレーションを行いました。約200人がスタジアムで効果を確かめ、また、テレビでも3000万人が視聴しました。
また、ユーザーに水利用を改善してもらうような啓発活動も同時に行っています。水不足の国々では、1日の水使用量のうち、洗濯時と身体を洗う際の水使用量の削減に取り組んでいます。
やり方は、いろいろありますが、ユーザーに家庭でできる2Rをすすめてはいかがでしょう。
「Reduce(リデュース)」とはつかう量を減らすこと。
私たちは毎日約300ℓの水をつかっていますが、もっと少ない水の量でも十分にやっていけるでしょう。
では、具体的にどのような方法があるでしょうか。たとえば、はみがき。水道の蛇口を30秒間出すと約6ℓの水が出ます。はみがきをして口をゆすぐとき、蛇口をあけたままにしておくのと、コップにくんでつかうのとでは、つかう量がずいぶん違います。200㎖コップで3回ゆすいでも0.6ℓと10分の1です。
では、こんな場合はどうでしょうか。ある3人家族が「今日から節水しよう」と決め、2つのアイデアを出しました。
(1)バスタブをいっぱいに満たして、そのお湯を3人でシェアする(足し湯はしない)
(2)これまでは思い思いにシャワーを浴びていたけれど、お湯を出す時間を1人6分とする(※シャワーヘッドは節水型ではない)
さて、(1)と(2)で、水使用量の「少ない」のはどちらでしょうか。
正解は(2)。
平均的なバスタブにお湯をいっぱいにすると200ℓ入ります。一方、従来型のシャワーからは1分間に10ℓのお湯がでます。3人が6分間つかうと180ℓになる。おふろとシャワーでどちらが水使用量が多いかは、おふろのお湯をバスタブにどれくらいいれるか、シャワーを浴びる時間と使用する人数などによって変わってきますが、ちょっと気をつけるだけで、簡単に節水できます。
最近では節水型のシャワーヘッドもあって、圧力を調整してあるので、使用感は変わらなくても、水使用量は50%というものもあります。洗車するときにホースで流し続けたときと、バケツに水をくんでふいた場合では、使用する水の量はどれくらい差が出るでしょうか。ある調査によると、洗車するときにホースで流し続けた場合、平均240ℓの水をつかいました。一方でバケツで水をくんでつかうと30ℓですみます。
一度つかった水を捨てずに、もう一度別の用途につかうことを「水のReuse(リユース)」といいます。水の用途はいろいろありますが、いつも飲用可能なレベルの水が必要なわけではありません。
キッチンまわりの水も工夫次第で2度も3度も利用できます。野菜を洗ったあとの水は、食器や調理器具などのおおまかな汚れ落としにつかえます。
うどんやパスタのゆで汁は、むしろ積極的に食器洗いに利用できます。油で汚れたフライパンや鍋や食器を、ゆで汁でつけ置き洗いをすると、汚れがすっきり落ちます。
うどんやパスタのゆで汁には小麦粉の成分であるデンプンやグルテンが溶けだしています。デンプンやグルテンには汚れを吸着するはたらきがあるのです。さらに小麦のたんぱく質には、界面活性作用といって、汚れを食器から引きはなすはたらきもあります。
ゆで汁は温かいほうが、こうした効果が高いから鍋から麺をあげた後は、フタをしてなるべく冷めないようにし、食後に鍋から洗い桶に移し、汚れた食器をそのなかに付けます。温かいゆで汁にひたして洗うだけで、しつこい油汚れもスッキリ落とせます。
こうした家庭での2Rなど、ユーザーの水意識を高める活動を行うこともとても大切です。
参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)