企業の水リスク(22)サプライチェーンのどこで、 どのくらいの水をつかっているか

なぜ食品・飲料メーカーは水使用量が多いのか

「あなたの会社はどのくらいの水をつかっているか」と聞かれたらとき、どこでの水使用を思い浮かべますか。多くの人が、店舗や工場での水使用量のことを考えるのではないでしょうか。

ですが、こう聞かれたときには、サプライチェーン全体の水使用をイメージしなくてはなりません。

日経225企業で水資源の使用量の多いセクターを見ると、「1位 食品・飲料」「2位 基礎資源」「3位 工業製品・サービス」「4位 パーソナル用品」「5位 化学」「6位 自動車製品・部品」と続きます。

食品・飲料が多い理由はなんでしょうか。これは食品・飲料は農作物を原料とするからです。農作物をつくるには、とても多くの水が必要です。

パーソナル用品も同じ理由です。パーソナル用品の原料になっているパームオイルなどの植物油脂をつくる場合もたくさんの水をつかいます。

一方で自動車・部品のような工業部品からできているものは比較的水の使用量が少なくなります。

ですが、水をまったくつかわない産業は存在しません。多かれ少なかれ、あらゆる企業が水をつかって生産活動をしています。

サプライチェーン上流の水使用は見えにくい

次にサプライチェーンのなかで、どこが水をつかっているかということです。

水資源の使用量の多いセクターのうち、「飲料」、「基礎資源」、「化学」などは、自社の工場のなかでたくさんの水をつかっています。こういうところでは自分たちが水を大量につかっているとい自覚もあり、水を大切につかう努力もしているでしょう。

ところが、そのほかの産業の場合、自社の工場のなかで水をたくさんつかっているわけではないので、水を使用しているという意識をもちにくい場合があります。

サプライチェーン全体を見渡せば、水リスクがあるのですが、それに気づきにくいのです。

日本は、世界有数の資源輸入国です。多くの資源をさまざまなかたちで輸入しています。

本来、原材料の調達にあたっては、日本国内だけでなく国外生産地における環境・社会配慮も欠かせないはずですが、サプライチェーンが複雑であったり、情報が不足していたりするため、国外生産地におけるこうした問題が見えにくくなっています。

消費者が安いものを求め、企業がそれを提供することに力を注げば、原材料生産にあたって必要な環境や社会への配慮が行われず、そのツケを払うのは、環境問題や社会問題で被害を受ける現地の人びとになります。

食品メーカーは、原材料の多くを海外から買っています。

輸入農産物のトップ3は、トウモロコシ、小麦、大豆です。これらは、いろいろな食品に加工されたり、畜産業での飼料としてつかわれています。

たとえば、とうもこしは、飼料が65%、コーンスターチが20%、アルコールが15%。小麦は、小麦粉が84%、飼料が10%、味噌、醤油が6%です。

飼料の割合が多いということは、国産牛や国産豚を扱う会社でも、海外の水をつかっていることになります。

主な輸入先国としては、米国が圧倒的に多く、オーストラリア、中国と続きます。これらの国々は水不足が深刻になっています。ここから輸入している企業は大きなリスクをかかえていることになります。

とりわけ飼料用の穀物を利用する食肉加工や乳製品製造、製粉、食用油製造、食品製造業などは大きな影響を受けます。製粉業者1社が輸入している水(小麦を育てるのにつかわれた水)は、約30億㎥以上と推定されます。一般的に水の使用量が多いと思われる大手飲料メーカーですら、自社グループでの水使用量は1000万㎥程度です。輸入される水の量がいかに大きいかわかるでしょう。

輸入食料に依存する企業は、食料輸入先の現状を認識、分析、評価し、今後の対応を事業戦略に組み込むとともに、その状況について適切な情報開示を行う必要があるでしょう。

食料輸入に依存したビジネスを行う企業にとって、その輸入先国の水資源の状況は大きな水リスクとなります。加えて、世界的な人口増加や経済成長による食料需要の増加、さらには国際的な金融緩和による穀物市場への投機マネーの流入を考慮すると、安定的な食料輸入の継続性には大きな不安があります。こうした企業にとって、この問題は大きな事業リスクとなります。同時に、それへの対応は、水ストレスを抱えた国に対する重要な社会的責任となるでしょう。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所