プロジェクトWET「水差しをまわそう」を活用する
教育現場でアクティブ・ラーニングが行われることが増えました(※文部科学省の学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」という言葉が使われていますが、ほぼ同義ととらえ、ここでは「アクティブ・ラーニング」という言葉を使っていきます)。
水をテーマにアクティブ・ラーニングを行う場合、「プロジェクトWET」のアクティビティは有効です。これは米国で開発された教育プログラムで、WETはWater Education for Teachersの頭文字をとったものです。
今日は「水差しを回そう」というアクティビティを紹介します。
参加者はある川の流域で、事業を営む人を演じます。
たとえば淡水魚の養殖業者、ペットボトル水工場や半導体工場の経営者、稲作農家、果樹園農家、水道事業者、製紙業者などになり、共通の水を使う疑似体験をします。
私は川の水を使うケース、地下水を使うケースをイメージしてもらうために、以下のように少しアレンジを加えて行っています。
ガラスの水差し(見えるので川の水を表す)と水筒(見えないので地下水を表す)に入った水を上流に位置する事業者から順番に使い、下流の事業者へまわします。
たとえば、ペットボトル水工場なら水筒から自分の器へコップ2杯分の水を移し、次の人へ水筒を渡します。
稲作農家なら水差しから自分の器へコップ5杯分の水を入れ、その後、水差しへコップ2杯分の水(田んぼから用水路を経て川へ戻った水を表す)、水筒へコップ1杯分の水(田んぼから地下へ染み込んだ水を表す)を戻します。
水を汚染する可能性のある事業者は、排水を水差しや水筒に戻す際に、醤油を1滴(汚染物質を表す)加えます。上流の事業者が過剰に使うと水は減り、排水に注意しないと水は汚れ、下流の事業者は水が使えなくなります。
こうした体験の後、地域の水についてどんな問題が起こりそうかを話し合ってもらいます。
意見には次のようなものがありました。
「水は地域の共有物なので、利用者同士の争いが起きる前に一定のルールが必要ではないか」
「地下水のルールは必要だと思うが、企業の反対も多いだろう。地下水に関心をもつことが大切ではないか」
「しっかりした調査(地下がどこからそれだけ流れてくるのか、誰がどれだけの水をつかっているか、汚染度はどのくらいか)が必要だ」
アクティビティを体験することで水についてさまざまな視点を獲得し、自分の住んでいる地域にも水問題があると気づくようになります。アクティビティを通じて水の問題が「自分ごと」になっていきます。