プロジェクトWET「地下水を知ろう」を活用する

ぬりえ感覚で地下水をイメージできる

教育現場でアクティブ・ラーニングが行われることが増えました(※文部科学省の学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び」という言葉が使われていますが、ほぼ同義ととらえ、ここでは「アクティブ・ラーニング」という言葉を使っていきます)。

水をテーマにアクティブ・ラーニングを行う場合、「プロジェクトWET」のアクティビティは有効です。これは米国で開発された教育プログラムで、WETはWater Education for Teachersの頭文字をとったものです。

今日は「地下水を知ろう」というアクティビティを紹介します。

参加者は調査会社のメンバーになって、架空の地域の地下水を調べます。

まずは、自分の担当したエリアの地下について、どの深さにどんな地層があるか、どこに地下水があるかなどを調べます。

次に参加者それぞれのデータを合わせます。

これは実際の地下水調査において、ボーリング調査を行い、データを持ち寄る場面を表しています。

そして調査エリアの地下について、どの深さにどんな地層があるか、どこに地下水があるかを考えます。持ち寄ったデータを合わせ、どんなことが読み取れるかを話し合います。

たとえば、こんな声が上がります。

「地表近くでは砂の層を地下水が流れいる」

「次に粘土層によって隔てられ、さらに深いところでは再び砂の層のなかを地下水が流れている」

「地域全体を見回すと、ある地区で過剰な汲み上げをしており、そこを中心として地下水位の低下や地盤沈下が起こっている」

最後に、このアクティビティをやって気づいたことを話し合います。

「地下水が地下を流れていくとわかった」

「地面の下に、水を流しやすい部分とそうでない部分がある」

「ある場面で過剰に使うと周辺に影響を与える」

「地下水を過剰に使うと、水が流れていた土の部分が縮んで、地面全体が凹んでしまう」

などの声が上がります。

大学では地下水マネジメントを考える導入として活用

このアクティビティは一般の方や高校・大学生が地下水について学ぶときの導入としても使えます。

地下水はふだん目に見えないので、その価値を共有するのがむずかしいのですが、このアクティビティを行うとイメージできます。そのうえで、地域のまち歩きなどを行い、より詳しく地域の湧水や地下水を考えたり、自分のまちの地下水データを見たりします。

以下は、アクアスフィア・水教育研究所が授業支援を行った静岡県立三島北高校で「地下水を知ろう」を行ったときのタイムスケジュールです。

富士山と地下水というテーマで学習するなかで、このアクティビティを行いました。

橋本淳司が武蔵野大学で「地下水マネジメントの必要性」について考える時も、このアクティビティを活用しました。

 このときは「地下水を知ろう」のほかに「重大な過ち」というアクティビティを行い、その後、学生さんに地下水に対する課題と、解決方法のおおまかな方針を話し合ってもらいました。主な意見には以下のようなものがありました。

<地下水に関するルールが必要ではないか>
・利用者間の争いが頻発する前に一定のルールが必要
・誰もが平等に水を利用できるような決まりをつくる
・地下水法は必要だと思うが企業などの反対も多いだろう
・地下水への関心の薄い現状では地下水法の議論は深回らない
→どのようなルールであればみんなが納得するのか?

<地下水に関する教育活動が必要ではないか>
・地下水に関しての議論が深まらないのは多くの人が地下水のことを知らないからだ
・地域の地下水について住民で議論し、意見を首長や行政に提出する
・子供たちへの教育活動(小学校から高校)を行う。地下水に関する体験型教材をつくる
・企業が自社が使用する水についてきちんと理解したうえで宣伝することで自然と意識が高まるのではないか

<地下水保全に向けてどんなアクションが考えられるか>
・まずはしっかりした調査(地下水量、誰がどれだけの水をつかっているか、汚染度はどのくらいか)を行うべき。数値データのない議論は不毛
・同じ地下水脈の水を活用する自治体が協働するには地域の地下水について把握する必要がある
・林業分野、農業分野、企業活動が協働して水保全を行うことの合理性を説く
・保全活動の成果を数値によって見える化すべき

<地下水汚染>
・福島第一原発の汚染水問題は拡大を続けている。そのことをきちんと認識し、解決に向けて真摯にとりくむべき
・地下水質を保全する意識が農業者に必要。施肥や家畜のし尿が地下水汚染につながることを認識し、農業主体で地下水を保全する方法を自治体で行う

「地下水を知ろう」は小学生を対象に行うと、ぬりえ感覚で楽しみながら、地下水とはこういうものだとイメージできますし、大人や大学生が地下水について話し合いをする前のウォーミングアップとして活用すると、その後の深い対話につながります。