企業の水リスク(28)水リスクを考えた工場の選定
地域の水環境を予測する
水リスクを考えると、自社工場の進出先は変わってきます。
これまで工場進出先を選ぶ場合、消費地に近い、人件費が安いなどで決めていたと思います。
ですが、今後は水リスクのことを判断材料に加える必要がありそうです。
ある食品メーカーは、中国北部に工場をもっていました。しかし、水不足のために水の値段が上がりました。今後も水不足は深刻になると予測されており、さらに水の価格は上がりそうです。この食品メーカーは中国から撤退することを決めました。
中国の水不足の原因の1つは、地下水のくみ上げすぎです。とくに中国では深刻な問題となっており、中国政府は製造業の発展が水不足によって停滞するのではないかという懸念をもっています。既に首都北京では水使用量が増える一方、小雨傾向から地下水涵養(かんよう)量が減っているため、地下水の不足や周辺部での地盤沈下が起きています。欧米から中国に進出した企業が、地盤沈下のために操業ができなくなったケースも発生しています。
水の潤沢な地域を生産拠点に選択
別の食品メーカーは、トマトの缶詰をつくっています。顧客の多くはヨーロッパにいます。増産することになり、どこの農場でトマトをつくり、どこに工場を出すかが課題となりました。選択肢は、3つありました。カナダ、中国、トルコです。
中国は、人件費は安いのですが、水不足になっています。
トルコは、消費地に近いのですが、水に関するさまざまなルールがありました。
カナダは、人件費は高いのですが、水は潤沢でした。結局、トマトを生産し、工場で加工するときにつかう水を安定的に確保できるのはカナダでした。そこでこのメーカーはカナダに進出することにしました。
参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)