企業の水リスク(29)ユーザーの水使用量を少なくする
サプライチェーンの下流に注目
サプライチェーンは、自社を中心に、上流と下流へ広がっています。これまでは上流についてみてきましたが、ここでは下流について見ていくことにしましょう。下流で大きいのはユーザーです。
ユニリーバ社は、世界約190か国にブランドを展開する消費材メーカーです。ヘアケア製品、スキンケア製品などの日用品を提供しています。同社は主要製品(約1600製品)のウォーターフットプリントを「原料に使用される水の量」、「製品中の水分量」、「水不足の国々におけるユーザーによる水使用量」にわけて調査しました。水不足の国々とは、中国、インド、インドネシア、メキシコ、南アフリカ、トルコ、米国の9か国です。
すると製造段階での水使用よりも、販売後のユーザーによる水使用、原材料を調達する段階での農業での水使用が多いことがわかりました。
ユニリーバ社の水リスクは、サプライチェーンで見ると、製造の前段階と後段階にあるとわかりました。
製品使用時の水使用量はどのくらい?
もしかすると、あなたはユーザーがつかう水の量が、なぜ生産者のリスクにつながるのかと不思議に思うかもしれません。
ですが、製品のなかには使用時に水をつかうものがあります。
たとえば、髪を洗うときにシャンプーをつかいます。このとき同時にシャワーやおふろのお湯をつかいます。
たとえば洗濯のときに洗剤をつかいます。このときも水をつかいます。
もし製品をつかうときに大量の水が必要であれば、水不足の地域ではその製品は普及しないでしょう。
仮に、いまつかえていたとしても、今後、水不足になれば、その製品は売れなくなるでしょう。
ユニリーバ社の調査では、製品使用時の水使用量は、ウォーターフットプリントの50%を占めました。そこで、この水使用量(2008年を基準とした1回当たりの水使用量)を、2020年までに半分にするという目標を掲げています。
具体的にいうと、水使用量が少なくてすむ製品を開発することに力を入れています。たとえば、すすぎが1回ですむ柔軟剤入り洗剤を発売しました。1回の洗濯で最大30ℓの水を減らすことができます。
同様の商品は、花王も開発しています。花王は2009年にライフサイクルアセスメントを導入し、製品のライフサイクル全体で環境負荷を低くする取り組みを開始しました。
そのなかで、たとえばすすぎ回数を減らせる洗剤を開発し、話題になりました。この商品はオーストラリアや中国など、水不足に苦しむ地域でも発売されています。
一言つけくわえると、水使用量が少なくてすむ製品のなかに自然界で分解しにくい成分が含まれることがあります。これでは節水はできても水汚染につながりますから、開発時に注意が必要です。
「着用段階」での水使用を少なく
リーバイ・ストラウス社の発表(2007年)では、ジーンズ1本の綿花生産から製造、着用段階までの水使用量は3000ℓ以上であり、なかでも着用段階の洗濯による水使用量が全体の約45%を占めています。
そこで、消費者に対する啓発活動が大切です。商品タグやHPなどで、着用段階の水消費の低減につながる情報を発信しています。そのポイントは、「お湯ではなく水で洗いましょう」(お湯はわかすときにエネルギーをつかうから)、「洗濯は、週1回が一般的ですが、2週に1回程度で十分です」「乾燥機ではなく、自然乾燥にしましょう」です。ジーンズの洗濯を週に1回から2週に1回に減らすことによって年間約500ℓの水を削減する効果があります。
参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)