企業の水リスク(40)水とエネルギーの連鎖

大量の石油エネルギーの使用が水不足につながる(EとW)

地球温暖化は石油・石炭などの化石燃料に依存しすぎた結果として起きました。地球温暖化は水循環のバランスを崩し、水不足や洪水を加速させます。

温度が上がると海面からの蒸発がさかんになって、雲の発生が早くなります。その水蒸気が雨や雪になって地上に降り注ぎますから、世界全体の水循環が強まり、雨量が増加します。ところが水の少ない地域では、温度上昇の影響で蒸発がよりさかんになり水不足がひどくなります。

水をきれいにするエネルギー

水関連の事業はたくさんのエネルギーをつかいます。日本全国の水道事業でつかわれる電力はどのくらいあるでしょう。上水道にかかるエネルギーは年間79億kwh、下水道にかかるエネルギーは年間71億kwhで、合計150億kwhになります。これは原子力発電所1.5基が創出するエネルギー量に相当します。

具体的には、ダムなど水源から取水し、浄水施設で浄水し、ポンプで加圧する過程で大量の電力が使用されます。下水処理過程でも同様に汚水の処理や導水に電力が必要です。

 

自然にある水の汚染がすすみ、それをなんとかきれいにしようと水道事業がハイテク化されることによって、電力使用量は急増しています。たとえば浄水方法が、戦前のスタンダードであった緩速ろ過から、戦後の急速ろ過、最近の膜ろ過や高度浄水処理へと変わるたびに、必要なエネルギーは増えてきました。

とりわけ海水淡水化技術を利用するには大量のエネルギーが必要です。世界各地の都市で水不足を補うために海水淡水化をすすめようとしていますが、エネルギーを大量につかい、コストもかかるため、導入した都市の持続可能性には疑問符がつきます。地下水や川の水がなくなったら豊富な海水を淡水化すればいいという目先の水を増やすだけの考えでは町は持続しません。

水とエネルギーのマイナス連鎖を断ち切る

国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、世界のエネルギー生産で消費される水資源量が、2035年までに倍増する見込みです。とくに石炭・火力発電とバイオ燃料生産が増え、水資源が大きく圧迫されます。現行の政策を続けた場合、2035年にはエネルギー生産に必要な水資源の年間消費量は、現在の660億㎥から1350億㎥に倍増すると予測されています。

エネルギーをつくるには水が必要であり、水が(を?)つくるにもエネルギーが必要です。そのため、私たちの社会はエネルギーと水を大量消費せざるをえない連鎖のなかにあります。この連鎖を断ち切ることが早急な課題です。

現在のエネルギーは基本的に水が生み出しています。水力発電や小水力発電は水流によってエネルギーをつくります。火力発電や原子力発電は水蒸気でタービンを回転させてエネルギーをつくります。バイオ燃料の生産(トウモロコシなど)にも大量の水がつかわれています。

水を生み出すときに大量のエネルギーが必要なことは前述したとおりです。エネルギーも水も不足するとの予測のなかで、エネルギーを増やそうとすると水を大量につかい、水を増やそうとするとエネルギーを大量につかうというジレンマをいかに克服するか。それはとてもむずかしいことでしょう。なぜなら私たちに資源を提供してくれる地球は1つしかないからです。地球の提供分を超える水やエネルギーは望めないのです。

「環境」「経済」「地域社会」の3本柱を鼎立する

そうしたなかで、まだ工夫できることはあります。水道事業には浄水、ポンプの可動などにかなりのエネルギーが必要です。このエネルギーを減らすことが1つの課題です。そうすることによって水道事業にかかるコストを削減することができますし、温室効果ガスの削減にもつながります。さらに水道事業が自前の自然エネルギーで操業でき、余剰分を近隣に売電できれば、水道事業の収支は明るいものになります。

自然エネルギーは分散型のエネルギーで、地方が独自の政策を打ち出しやすいのです。これまでは大量の燃料を輸入し、それを巨大な発電所で燃やし、送電網を通じて電気を配給するというしくみでした。

自然エネルギーにシフトすると、身近なところで電気をつくり、つかうというエネルギーの地産地消が起きます。太陽電池や風力タービンなどの小型発電施設が設置され、大型発電所から遠方まで送電することにより生じる損失や、送電塔などによる環境破壊もなくなります。じつは水道事業は自然エネルギーとの親和性が高いのです。地域のエネルギー拠点の1つを各自治体の水道事業者(浄水場)が担うことができます。

日本の水道事業者は小規模で数が多いのが特徴です。東京、横浜、大阪のような大水道事業者は例外中の例外で、日本にある約2000の水道事業者のうちの4分の3は給水人口5万人以下という小規模事業体です。さらに給150 part.6 地域にあったアクションを考える151水人口5000人以下の簡易水道が全国に約1万5000カ所あり、なかには山間に立地するところも多いのです。

そのため経営効率が悪く、水道関係の専門技術者も不足していることから、広域化や民間委託の対象になっています。ですが発想転換すると、こうした小規模事業者を地域社会の自然エネルギーの拠点の1つにすることはできます。

浄水場の太陽光発電

実際、すでに数多くの浄水場に太陽光発電が設置されています。

今後、太陽電池の効率が上がり、その数も増えてくればエネルギー自給率はさらに上がるでしょう。余剰エネルギーを地域社会に分配することもできるようになります。

山間部は小規模水力エネルギーの宝庫です。小規模水力発電は、水流の小さな落差や農業用水路で水車を回して電気を起こします。日本の地形は急峻で、川の流域が狭く、勾配が急なのが特徴です。これは小規模水力発電を行うには非常に適した地形です。山間にある簡易浄水場は水道行政からはお荷物のように見られていますが、小水力発電の拠点として活用することができるでしょう。

最近では効率のよいタービン発電機が開発されていて、わずかな落差、小さな流れでも大きなエネルギーを生むことができます。高低差を利用して送水する既存の水道施設を活用できる上、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出抑制にもつながる新たな発電方式として、温暖化対策に取り組む自治体を中心に注目を集めています。

下水道事業をバイオマス発電事業に

もう1つ自然エネルギーとして忘れてはいけないのがバイオマスです。下水は大きなゴミを取り除いた後、汚れを沈殿させます。次に空気を送り込んで微生物を活動させて汚れを分解させ、さらに汚れを沈殿させ、浄化した後、放流されます。しかし、下水が浄化されて終わり、ではありません。下水汚泥が生まれます。

国土交通省は下水汚泥のエネルギー利用を地球温暖化対策の一環と位置付け、民間活力を導入した地球温暖化対策下水道事業制度を2008年にスタートさせています。下水を処理した後に排出される下水汚泥は、年間230万t程度が安定的に供給されるバイオマス資源です。下水汚泥のリサイクル率は7割を超えるが、セメント資材や土壌改良材などの用途が主で、エネルギー利用はわずか1割程度しかありませんでした。

そこで下水汚泥のエネルギー利用を推進、下水汚泥の処理費用と温室効果ガスの両方を削減できる手法として、燃料化技術の導入を図る自治体も増えています。

このように水道事業の周辺には、太陽光発電、小規模水力発電、バイオマスと自然エネルギー創出の機会があります。こうしたことに着目して新規事業を起こし、地域雇用を創出することができます。水需要は現状維持でも新たな自然エネルギー事業でコスト削減あるいは収益を上げ、財政の健全化を図ることができるでしょう。

きれいな水を育む企業

では、企業は地域の水に対してどのような貢献ができるでしょうか。水使用量を減らすだけでなく、地域の田んぼに水を張る支援をしたり、間伐や植林活動によって森の保水力を高めるなどさまざまなことができます。

こうした活動のメリットは2つあります。1つはきれいな地下水を地域に育むことです。地下水は他の水源にくらべてきれいなので浄水にかかるエネルギーガスがなくてすみます。

また、地域にある水源なので、遠くからポンプ導水するエネルギーを減らすこともできます。日本の水道事業は危機にひんしており、今後、人口の少ない地域では水道が維持できなくなる可能性があります。そうしたなかで、企業の地下水を育む活動は大きな社会貢献となります。もう1つは地域を気候変動による洪水から守ることができます。森、食、エネルギーの関係性に着目しながら、水を保全することで大きな地域貢献ができます。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所