企業の水リスク(35)雨水活用は洪水対策でもある

雨水活用は洪水防止につながる

会社の屋根に降る雨水をタンクにためたり、駐車場に降った雨を大地に浸透させれば洪水防止につながります。1つの会社の敷地やビルではわずかでも、地域全体にひろがると、大きなダムと同じ効果を発揮します。

こうすることで治水ダムや堤防だけに頼らない洪水対策ができるようになります。これまでの治水対策は河川区域にだけに注目し、水をコンクリートで制圧しようとした結果、洪水流量がかえって増え、さらに大規模な治水計画を立てるという「いたちごっこ」になりました。

この考え方では、限りなく堤防を高くし、ダムをつくり続けなければなりません。3章で気候変動により集中豪雨が多くなるという話をしましたが、(トル?)今後ますます激しくなる気候変動にともなう水害や渇水に、従来のやり方だけで対応するのは技術面、コスト面でむずかしいでしょう。

流域全体で治水する

そこで河川だけではなく、流域全体に視野を広げた治水対策が必要になります。たとえば、2014年、滋賀県「流域治水条例」ができました。200年に1度の大雨を想定した浸水危険区域を指定し、地盤のかさ上げか避難所整備を求める内容です。流域治水政策はヨーロッパやアメリカではあたり前ですが、日本ではダムや河川整備による治水が主流でした。滋賀県の条例は、ソフトな国土強靭化政策といえるものです。

雨水活用もその1つです。川を制圧しようとするのではなく、増水の原因となる雨をため置いたり、地下に浸透させます。具体的には、流域内の公共施設や企業の敷地を利用して雨水貯留施設を整備したり、個人住宅や会社に雨水タンク、浸透ますなどを設置します。

都会ではそれぞれの家がタンクに雨水をためれば、無数のミニダムができます。かりに東京都内のすべての一戸建て住宅が屋根に降った雨をためたとすると、1億3000万tの水が確保でき、これは利根川水系の八木沢ダムが東京都に供給している水量を上回ります。

すでに雨水貯留槽を供えた建築物もできています。たとえば、東京スカイツリーには、2600㎥と日本最大級の雨水貯留槽が設置され、トイレの流し水や屋上緑化への散水に活用しています。

雨水活用都市をつくる

雨水活用には大きく3つの役割があります。第1に身近な水源。第2に都市型洪水の防止。これについてはこれまでお話ししましたが、3つ目が、災害時のライフポイントです。

災害でラインが寸断されれば都市機能は完全に麻痺します。東日本大震災では寸断された水道が復旧するまでに長い時間が必要でした。そのため一点集中の大規模水源から分散した小規模水源へという発想の転換を進めるとよいでしょう。


役割を十分に果たすには、個人宅や街角での小規模貯留ではなく、企業の敷地や公共施設の地下などに、大規模の雨水タンクを設置できれば、本格的な災害時の水源となります。その点、雨水を資源化する雨水地下貯留タンクというものが開発されています。貯留材と呼ばれるプラスチック製の部材を上下左右に積み上げて立体をつくり、全体をシートで包みます。貯留材の組み合わせ次第で大きさは自在です。かつてはコンクリートや鉄だった素材が、プラスチックに変わったことで、ブロックのように組み合わせ可能になり、簡単に大型施設ができるようになりました。

たとえば、企業の駐車場スペースに500tの雨水貯留槽が地下埋設されたケースがあります。そのほか学校や保育園などのグラウンドの下、公園の地下、ショッピングセンターの駐車場の下、マンションや一般家庭の庭・駐車場の下などに設置されています。

水不足が深刻になる海外の都市では、雨水を本格的な水資源として貯留し利用する道が模索されています。海水淡水化や下水再生など、高コストでエネルギー使用量の多いしくみを導入するよりも、身近な水源を活用したほうが都市の持続性につながります。

年間通して降雨量の少ない地域でも雨季には一定量の雨が降るので、それを貯留しつかうことはできるのです。

雨水活用は「自然の恵みを活用する」1つの方法です。産業革命以降の250年ほどで、人類は経済的繁栄を手にしました。その一方で環境破壊が進み、化石燃料使用による地球温暖化が進み、洪水・干ばつ・海面上昇などが地球規模で起きています。近年、この悪循環を脱し、再度スムーズな自然の物質循環を取り戻そうとする取り組みが進められています。代表的なものは、太陽光・風力・地熱など自然エネルギー活用ですが、雨水活用もその1つといえます。そして、手軽にできてお金もさほどかからないというのもうれしいところです。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所