企業の水リスク(19)気候変動によって企業は どんな影響を受けるのか

気候変動によるさまざまな影響

気候変動による影響をまとめてみましょう。

気候変動が進行すると、水、生態系、食料、沿岸域、健康などのさまざまな分野で影響が出ます。

水についていえば、気温上昇によって蒸発量が増え、豪雨による洪水や土石流、土砂災害などが増加します。また、健康に関する影響として、熱波や熱中症による死亡リスクの増加、熱帯性感染症の増加などがあげられます。

気候変動があなたの会社に与える影響について具体的に見ていくことにしましょう。

気候変動が企業に与える影響

洪水によって原材料が不足したり、工場の操業が停止することもあるでしょう。

2011年に、タイを中心としたインドシナで大洪水が起きました。この洪水は50年に一度の規模といわれました。日本企業の工場も大きな被害を受けました。企業への損害保険支払い金額は9000億円(再保険分も含む)と、東日本大震災の企業向け地震保険支払額6000億円を上回っています。

アジア開発銀行(ADB)の調査では、アジアの約8割の国で、水を巡る環境が危機的状況に直面しているとされています。人口増加や工業化のなかで配水などのインフラ整備が追いついていないためで、改善には1300億ドル(約12兆4800億円)の投資が必要だといいます。ADBによると、世界で起こる災害の9割は洪水や台風など水に関連するもので、発生件数は増加傾向にあります。アジアでは、海抜が低いタイに加え、フィリピンでも都市部の排水設備が不十分なため、雨期になると度々大規模な洪水が起きています。

さらに、アジアでは6億人以上が海抜10m以下の沿岸部に住んでおり、被害を受けやすいため、予報や警報のシステムを整備するなど、災害への耐性を強化することが必要です。アジア以外でも、米東海岸のハリケーン被害南米ブラジルでの集中豪雨欧州西部やアフリカ・チュニジア、オーストラリアでの降水量増大など、各地で激しい雨が増えています。

国内に目を向けると、前述したように、東京、名古屋、大阪など大都市部に「0メートル地帯」が広がっています。こうしたところに拠点があると、操業リスクを受けやすいといえるでしょう。

原材料についても同じことがいえます。2010年、パキスタンを未曾有の大洪水が襲いました。7月末、北西部で記録的な大雨が降り、インダス川に沿って、洪水が中流のパンジャブ州や下流のシンド州に広がりました。国土の5分の1が水につかる深刻な事態となり、死者およそ1900人、被災者は2000万人に達し、経済は壊滅的な打撃を受けました。パキスタンは世界第4位の綿花の産地ですが、畑が水につかりました。綿花価格は高騰し、アパレル業界に大きな影響を与えました。

アマゾン川河口でも最近は雨期が早まり、雨の激しさが増しています。アマゾン川の水位が早く上がるようになり、畑をつかえる期間が短くなりました。作物が成長する十分な時間はなく、畑が水没する冬には耐水性コンテナに苗を移して水面に浮かべ育てるなどしています。

反対に干ばつの被害もあります。オーストラリアの干ばつが発生した際、オーストラリア産の小麦に大部分を依存しているうどん業界が大きな影響を受けました。

世界中から原材料を調達するグローバル化が進んでいる現在、温暖化によりサプライチェーンに影響を受ける可能性はどの企業にもあります。温暖化による農作物の収穫量低下は、食品産業の現材料調達コストの増大を招き、直接的に企業の財務面へ影響を及ぼします。

国内でも操業ストップの危険性

国内でも台風や洪水、豪雨などの風水害リスクが増加しています。すると事業が直接的もしくは間接的に影響を受けることが考えられます。

温暖化やヒートアイランド現象の進行にともない、ゲリラ豪雨の頻度が増加しています。気象庁では、1時間に50㎜以上80㎜未満の雨を「非常に激しい雨」、80㎜以上の雨を「猛烈な雨」と表現しています。2013年の「非常に激しい雨」は237回。「猛烈な雨」は25回で、1975年から2013年ま
でのトレンドは増加傾向にあります。

 

また、都市全域が舗装されたことで雨水が地面に染みこまなくなり、合流式という排水と雨水をいっしょに集める下水道システムの場合、河川や下水道から水が溢れ出る都市型水害のリスクが増加しています。

豪雨によって工場の生産ラインがストップするケースもあります。

温暖化による気温の上昇にともない、屋外で働く従業員の熱中症リスクが増え、従業員の安全管理や業務運営に支障をきたすおそれもあります。

猛暑のなかは水分補給をおこたると、血液中から水分が少なくなり、ドロドロの血液が血管を詰まらせるため、心臓病や脳血管障害などの病気のリスクも高まります。

気候変動に対応した企業の評判がよくなる

1997年の地球温暖化防止京都会議で京都議定書が採択され、日本は温室効果ガスの排出量を1990年比で6%削減することになりました。また、政府は2020年までの温室効果ガス排出削減の中期目標を、2005年比で15%減とする方針を打ち出しています。

こうした温室効果ガスの排出規制のルールづくりは、国レベル、自治体レベルで強化されています。世界的に干ばつや洪水が拡大するなかで、さらに具体的な気候変動への対応ルールがつくられる可能性も大きい。企業にとっては、ルールに対応するためのコスト増加が問題になるケースがあるでしょう。

ですが同時に、気候変動に対する企業の取り組みは、企業や商品の競争力に影響を与えるでしょう。ジェトロ(独立行政法人日本貿易振興機構、JETRO)が、「商品を購入する際、環境に配慮された商品であるかを意識しているか」を調査したところ、「かなり意識している」、「意識している」、「まあ意識している」人は全体の5割を越えました。約5割の人が「意識している」と回答しています。また、欧米でも同様の調査が行われており、日本以上に多くの人が企業の環境対応に厳しい目を向けています。

商品の製造から廃棄までのライフスタイルを通して排出された温室効果ガスの量を商品上に表示することによってCO2の量を見える化するカーボンフットプリント制度が注目を集めはじめてますが、こうした取り組みに、多くの消費者が注目しており、今後は、価格や品質だけでなく、CO2の排出量が商品のマーケティング戦略上の重要な要素になるでしょう。

気候変動への企業自身の取り組みが企業競争力に影響を与える可能性があります。同業他社と比較して取り組みが遅れている場合、企業の評判低下を招くでしょう。

さらには、投資家や消費者からの圧力が増すリスクがあります。

たとえば、日本の鉄鋼メーカーが、競争上不利益を受けるとしてエネルギー消費情報の開示を拒んでいました。すると情報公開法に基づくエネルギー消費量の開示を求められ、環境NPOから提訴されました。

 

また、日本の自動車メーカーが、「自動車から排出されている温室効果ガスにより数十億ドルの損害が出ている」として、カリフォルニア州政府から提訴されたことがあります(2006年9月)。米国の連邦地裁はこの訴えを退けましたが、その後、米国環境保護庁は、「温室効果ガスは大気汚染物質であり大気浄化法による規制対象になる」という見解を示しています
(2009年4月)。

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所