企業の水リスク(25)原材料を調達する地域を変える

1ℓの価値は世界中どこでも同じか

原材料を変えなくても、原材料を調達する場所を変えることで水リスクは下げることができます。

水の使用量を考えるとき、絶対量だけに注目するのではなく、地域の水の量と相対的に見てみましょう。たとえば、水の豊富なカナダでつくられた牛肉と、水の少ないオーストラリアでつくられた牛肉。牛肉1キロをつくるまでにつかわれた水の量は同じでも、地域への環境負荷はまったく違います。

雨が多く、水の豊かな国でつかう1ℓと、からからに乾いた砂漠でつかう1ℓでは1ℓの価値は違います。

ですから、どの地域でどれだけの水をつかっているかを把握することが重要です。

たとえば、マクドナルドは、主要サプライヤー(353社)がどこでどれだけの水をつかっているかを調査しました。ハンバーガーの原材料である牛肉は生産にたくさんの水をつかいますが、生産地には水の豊かな地域もあれば、水不足になっている地域もありました。これを把握することで、自分たちのどこに水リスクがあるのかがわかりました。

同じ原材料を調達するのであれば、水の少ない地域から、水の豊かな地域に変えることで、水リスクを下げることができます。

オレンジの調達先をスペインから南アフリカに

現実的には、さまざまな要因との兼ね合いを考えて決断することになるでしょう。

イギリスのスーパーマーケット、セインズベリーの例でお話ししましょう。セインズベリーは、これまでオレンジをスペインから買っていました。

ですが、スペインは水不足が深刻になると予測されています。2000年以降、たびたび熱波や干ばつに襲われ、農業が大きな打撃を受けています。同時に砂漠化も進んでいました。

そこでセインズベリー社は、スペインからのオレンジの購入量を減らしました。スペインのオレンジにだけ依存していると、オレンジが仕入れられなくなる可能性があるからです。

 

そして、別の地域から買うことを決めました。それは水ストレスがあまり大きくならないと予測されている南アフリカです。

スペインからイギリスへの距離、南アフリカからイギリスへの距離を比較すると断然、後者が長い。輸送距離が長くなれば、輸送コスト、エネルギーコストなどが増えます。

セインズベリー社は、水リスクと、コストやエネルギーの問題をあわせて考え、最終的に、南アフリカから購入したほうがよいと判断しました。そのほうが、この先も持続的にオレンジを仕入れていけると考えたのです。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所