企業の水リスク(6)現在の生産活動は、 未来世代の水で行われている

淡水使用の7割は食料生産につかわれる

地球の水の量が昔から変わらないのに、どうして水が不足してしまうのでしょう。

その理由の1つは、つかう量が急激に増えたことです。

地球にある利用可能な淡水のうち、約7割が農業につかわれています。

あなたが毎日食べているパンやごはんも、原料となる小麦や米をつくるときには、水が必要です。どんな農作物をつくるにも、たくさんの水が必要です。

たとえば、食パンを1斤つくるのは300gの小麦粉が必要ですが、これだけの小麦粉を育てるには630ℓの水が必要です。

また、茶わん1杯のごはんは、生の米約75gに当たります。それだけの稲を育てるには、およそ278ℓの水が必要です。

野菜をつくるのにも水は必要です。たとえば、タマネギを1個つくるには38ℓの水が、トウモロコシ1本をつくるには87ℓの水が必要です。

にわとり、ブタ、牛などの家畜を育てるには、飲用水のほかに、飼料となる穀物などを育てるにも水が必要です。家畜を育て、食肉にするまでにつかう水をすべて計算すると、

 鶏肉1㎏当たり4500ℓ

 豚肉1㎏当たり5900ℓ

 牛肉1㎏当たり20600ℓ

となります。

人口が増えると、その分、たくさんの食料が必要になります。

世界人口は現在の70億人から2025年には81億人に増えるとされています。こうなると食料生産のための水がさらに必要になります。人口増加を背景に、食料や家畜のえさなどのためにつかわれる水の量は、今後50年で2倍近くに増えると予測されています。

さらにいえば、穀物や野菜中心の生活をしていた人が、乳製品や肉類を食べるようになると、生産に必要な水の量は増えていきます。食の欧米化は世界的にすすんでいて、水使用量の多い食事をする人が増えています。

農業生産で地下水が涸れる

農業のやり方も変わってきています。最近は大規模な機械式の農業を行うことが多くなりました。大きなポンプで深井戸から水をくみ上げることもあります。同じ土地で農業をしていても、つかっている水の量はどんどん増えています。

いま世界各地で、農業や工業などに使用するために、大量の地下水がくみ上げられています。その量は、雨によって地下水がたまる量をはるかに上回っています。そのため地下水が涸れてしまったり、地盤沈下が起きたり、砂漠化が進行したりしています。
大規模な農業は、一時的に作物の収穫量を増やしますが、大量に水をつかい過ぎると、地下水は涸れ果ててしまい、結局、その土地で農業が営めなくなります。

生活用水や工業用水も増えています。2000年と2010年を比べると、製造業で400%、電力で140%、生活用水は130%増えました。

地球の水の量が一定でも、水使用量が増えれば水は不足してしまいます。

地球2個分の水をつかうようになる

あらゆる生産活動は地球に支えられています。地球は私たちに、きれいな水や空気、そのほか生産に必要な原材料になるものなどを提供してくれます。

ですが、地球の大きさは決まっているので、贈りものの量には限りがあります。

私たちは、現在、地球が1年間に提供してくれる、水や二酸化炭素の吸収量、食料や原材料などを、約8か月でつかい果たしています。1年間につかえる分(1月1日から12月31日までにつかえる分)を、8月下旬にはつかい果たしてしまい、そこから12月末までは、本当は手をつけてはいけない未来の分です。私たちは子供や孫の分の水をつかっているのです。

1960年代はじめには、地球が1年間に提供可能な自然資源のうち、人間がつかっていたのは3分の2でした。しかし、人口増加とさまざまな資源への需要が急増し、1970年代初めには、地球の提供量を超える自然資源をつかうようになってしまいました。

人間の地球への依存はさらに増え続け、今世紀半ばには、地球2個分になるといわれています。これでは地球がもちません。
私たちの営み、生産活動を、せめて地球1個分に縮小しなくてはなりません。

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)

アクアスフィア・水教育研究所