企業の水リスク(5)水のある時期、ない時期。 水のある場所、ない場所。
場所によって雨の降り方は違う
淡水の供給源である雨に注目してみましょう。地下水も川の水も元をたどれば雨ですから。
世界を見渡すと、雨の多い国と少ない国があります。
日本は、アジアモンスーン地帯に位置し、比較的雨の多い国の1つです。
日本は国土の四方を海に囲まれているので、あらゆる方向から湿気をおびた風が吹き込みます。それが日本列島の背骨をなす山々にぶつかり雨となります。
領海も含めた日本の年間平均降水量は、約1710㎜です。もし降った雨が流れ出さず、蒸発もしないということがあれば、大人の背丈くらいの水がたまることになります。
これは世界の年間平均降水量(807㎜)の2倍強あります。
もっとも雨の多い国はインドネシア(2702㎜)やフィリピン(2346㎜)など、反対に雨の少ない国はエジプト(51㎜)、サウジアラビア(59㎜)などです。
雨の降る時期、降らない時期
日本は雨の多い国ではありますが、だからといって、水が十分であるということにはなりません。
さきほど「もし雨がその場に止まり、蒸発もしなかったら」といいましたが、実際にはそんなことはありません。日本の山に降った雨が、その場に止まることはありません。降った雨は急な勾配を流れます。海へ向かって流れます。いくら雨が降っても、海水になってしまえばつかうことはできません。
雨が降る時期も、梅雨の時期と台風の時期に集中しています。雨や雪は年間を通じて、まんべんなく降るわけではなく、たくさん降る時期、ほとんど降らない時期があります。
東京の降水量(2002年~ 2011年)を見ると、月間降水量が最も少なかったのは2004年、11年の1月で3.5㎜でした。反対に、最も多かった2004年10月の780㎜でした。なんと200倍以上の開きがあります。梅雨時や台風の時期には降水量が多いのですが、冬場は乾燥し、降水量が少なくなっています。
さらに近年は、雨の降り方も変わってきています。世界的に、日照りと集中豪雨を繰り返す傾向にありますが、日本でも同じような現象が起きています。
雨の降る場所、降らない場所
地域によっても雨の降り方は違います。台風などの影響を受けやすい九州や四国などの太平洋側では、降水量が比較的多いのですが、山地や山脈を越えた北九州や瀬戸内海側の降水量はそれほど多くありません。
鹿児島や高知では2000㎜を超えますが、福岡や広島は1500 ~ 1600㎜程度です。また、東北や北陸などの日本海側では、冬場に雪がたくさん降りますが、山地や山脈をはさんだ太平洋側では、さほど多くありません。
つかえる水の量とつかう人の数
さらに、つかえる水が十分かどうかを考えるには、つかう人の数が大切です。水が比較的少ない地域でも、人口がわずかであれば十分といえるでしょう。
反対に、水が比較的多くても、人口が多ければ水は不足します。
日本は人口が多い。1人当たりの降水量は世界平均の4分の1程度で、けっして豊富とはいえません。
国土交通省は、水資源賦存量というものを算出しています。これは、降った雨の量から蒸発分を差し引いて、その地域の面積を掛け合わせたものです。
1人当たりの水資源賦存量が多くなる条件は、降水量が多いこと、面積が広いこと、人口が少ないことです。
しかし、日本の大都市や工業地帯の多くは、本州の太平洋側にあります。降水量は多いわけではなく、面積も広いわけでもありません。そこに大勢の人が暮らしているのですから、1人当たりの水資源賦存量は少なくなります。
とりわけ関東の1人当たりの水資源賦存量は際立って少なく、渇水の年では249㎥になります。
日本は比較的雨がたくさん降る国ですが、時間的な水のかたより、地理的な水のかたより、人口のかたよりを考え合わせると、水不足になりやすい時期と場所があるとわかります。
自然が用意した水循環のしくみは、いつでもどこにでも、均等に水をもたらしてくれるわけではありません。
人々の生活や産業が、自然の水循環のなかで営まれていた時代には、水はさまざまな恵みをもたらす一方、雨や雪が降らないことや降り過ぎることは、水不足や水害などの深刻な問題も引き起こしてきました。
それでも、人々は地域の水と向き合い、努力と工夫によって、きまぐれな水と上手に付き合ってきました。
科学や技術が進歩した現代では、大規模な設備や近代的な機械などを備えた貯水、利水、治水などにより、大量の水を手に入れることができ、水の脅威をある程度抑え込むこともできているようにみえます。
しかし、人口が増加し、産業規模も拡大した社会で、気候変動が起きています。
いままでのやり方で、水を抑え込もうとしても限界があるでしょう。
参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)