企業の水リスク(33)スローな流域づくりが企業の持続性のカギ

なぜ陸の水をゆっくり流す必要があるのか

人間の営み、企業の営みは、陸水を集めて活用し、それを海に流すこととも考えられます。そのスピードは近年になって加速しました。

日本の年間降水量は約1700㎜ですが、急峻な地形のため、多くの水が短時間で海に流れてしまいます。さらに近年は、森林の荒廃、水田の減少、河川のコンクリート護岸化、都市がコンクリートで固められたことなどで、水が地面に浸透する機会が減り、海への流れは加速しました。

おおまかにいうと、陸地にたまっている水が少なくなり、私たちの生活や生産活動につかえる淡水が少なくなっているのです。

これはなぜでしょうか。人口の集中にともなって、都市部を中心に森林や農地が減り、自然がもつ保水能力は低下しています。また、道路の舗装や建築物の密集が進んだ地域では、水が地下に浸透できる面積も縮小しています。そのため、舗装道路や建築物などの上に降った雨は、短時間に大量に貯水・排水設備などに流れ込むことになります。

もとより、山地が多く急峻な地形の多い日本では、降った雨が地表にとどまる時間は短いのです。短時間に大量に集められた雨水が、貯水・排水設備などの能力を超えれば、その地域に洪水が起こる可能性があります。

地球温暖化やヒートアイランド現象が、集中豪雨やゲリラ豪雨を起こすとすれば、貯水・排水能力を超える雨量の頻度も高くなるでしょう。

水を陸地にとどめる方法のあれこれ

そこで流れていってしまう水を陸地に留めることが大切になります。正確には、水の流れるスピードをゆるやかにするのです。それには地表をかけぬけていく水に、いったん地面のなかにもぐってもらいます。

地表の水を地下に浸透させることを涵養(かんよう)といいます。涵養(かんよう)方法はさまざまで、植林や間伐、河川を自然型に戻す、水田やビオトープや遊水地を増やす、都市部で雨水浸透ますを設置するなどです。地域にあった方法を選ぶとよいでしょう。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所