企業の水リスク(8)水が不足すると、水の奪い合いが起きる

水の奪い合いは国際河川で起きやすい

つかいすぎたり汚れたりして、水が足りなくなると、何が起きるでしょうか。

こんな予測があります。2030年には、世界の水の需要量が、供給量を40%上回るというのです。もちろん、これは机の上での計算だから成り立つことで、つかう水の量が、つかえる水の量を上回ることはできません。

何も対策をせずにそのときを迎えたら、水の奪い合いが起きたり、地球環境に決定的なダメージを与えるような水のつかい方がはじまっているかもしれません。
では、水の奪い合いとはどのようなものでしょう。

水を利用する権利をどのように分配するかは、とてもシビアな問題です。現在の日本では水利権の調整が進み、そうした問題は表立って起きなくなっています。なぜ日本で調整は進みやすかったかというと、島国なので川が国境を越えることがないことと関係しているでしょう。

ですが、世界には複数の国にまたがる川があります。これを国際河川といいます。
国際河川では、上流の国と下流の国のあいだで、水をめぐる争いが起きやすい傾向があります。話し合いではなかなか解決できず、武力衝突にまで発展してしまうこともあります。
たとえば、中国はメコン川の開発に力をいれ、雲南省に次々と大型ダムを建設しています。ですがこうしたダム建設は、メコン川の下流域に大きな影響を与えています。
メコン川は、チベット高地の源流から、6カ国を流れ、南シナ海に注ぎます。
中国のダム開発によって、メコン川の下流の国々の暮らしは大きく変わりました。タイ・ラオス国境地帯では漁獲量が激減しています。水量が減り、タイの穀倉地帯では水不足が深刻になっています。少なくなった水を工業と取り合い、水資源が限られて生産量は頭打ちです。ベトナムのメコン川下流地域では南シナ海の海水が逆流する現象まで起きました。そのため淡水養殖場の魚が大量に死に、水不足で農作物も枯れています。下流の国々では中国への不満が広がっています。
このように国際河川の上流にある強国が思いのままに水をつかうと、下流の国に大きなストレスを与えます。これが水紛争の原因となるのです。

 

日本に流れる国際河川

日本は島国のため、川は上流から下流まで国内を流れています。日本には国際河川がありません。水を利用するときに、他国との関係を気にする必要がないため、多くの人は、水紛争など関係ないと思っています。

しかし現在、日本は外国から輸入された食料品によって生活しています。
そして、日本企業は海外で生産された原材料に大きく依存しています。これらがつくられるまでにつかわれた水を考えると、輸入先から日本へと流れる水をつかっているのと同じといえます。目には見えない大きな水の流れがあるのです。
それは目に見えない国際河川です。上流の国で水不足が起きれば、流れはとだえてしまうでしょう。目に見えない水の流れであっても上流を意識することはとても大切です。

同時に、自分が使ったあとの水にも目を向けてください。液体の水をどのように流しているのか。食品や製品などに姿を変えた水がどうなっているのか、ということです。もしかすると、下流の水汚染の原因になっているかもしれません。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)

アクアスフィア・水教育研究所