企業の水リスク(1)仕事と水の関係を学ぼう

(イラスト:加藤マカロン)

数年後、あなたの会社は危機に見舞われる

 ビジネスパーソンに「水について考えたことがありますか」と聞くと、「いいえ」という答えが返ってくるのが普通です。あるいは「なんで水のことを考えなきゃならいの」という答えが返ってくることもあります。

 一部の企業が、「飲料水事業」、「水インフラ事業」、「水処理事業」に取り組んでいたり、環境部門の活動として「水」がテーマになっていたりすることはありましたが、多くのビジネスパーソンにとって、「水」は「関係ないこと」でした。

 しかし、世界各地で渇水や洪水が頻繁に起こるようになり、様子が変わってきました。いま水のことをきちんと考えておかないと、数年後、あなたの会社は危機に見舞われるでしょう。

 そう言うと、

 「毎日の仕事で水なんか使っていないけれど…」

 という声が聞こえてきそうです。

 ですが、あらゆる製品やサービスは水なしではつくれません。完成した製品や提供するサービスを見ると、水とは無縁に思うかもしれませんが、原材料をつくるときには、たくさんの水をつかっているでしょう。あるいは、ユーザーが製品をつかったり、廃棄するときに水をつかっているかもしれません。

 「原材料をつくるときにつかう水がうちの会社に関係あるの?」

 「ユーザーがつかう水のうちの会社に関係あるの?」

 今度はそんな声が聞こえてきそうですが、じつは国際的に見ると、企業はサプライチェーン全体で「水リスク」を考えるようになっています。

 

気候変動は水のすがたを変えていく

 では、「水リスク」とは具体的にどのようなものでしょう。

 もし自社工場が、水不足の地域にあれば操業できなくなります。洪水の発生しやすい場所にあれば、大きな損害がでるでしょう。

 自社の工場でなくても、原材料をつくっている地域が水不足になれば、大事な原材料が入手できなくなります。水そのものの値段が上がったり、水をつかってつくられる原材料の価格が上がることもあります。そうなると製造にかかるコストが上昇します。

 たくさんの水をつかったり、汚れた水を排出している企業は、環境に大きな負荷を与えていると評判が悪くなり、その地域から退場させられる可能性もあります。

 また、投資家が「水リスク」を抱える企業は事業の永続性に欠けると判断し、投資を控えることもあります。

 こうしたことから、経営者は「水リスク」に頭を悩ませ、課題解決に向けた戦略を実行しはじめています。

 この特集は、これまで日本ではあまり触れられることのなかった「企業の水リスク」についての入門的に考えていきます。地球の水の状況、企業の生産活動と水の関係、水リスクや気候変動への対応策について、具体的な事例をおりまぜながら、やさしくお話していきます。

 皆様の企業活動のお役に立てましたら幸いです。

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)