<水の科学27>水没する土地、住めなくなる土地
地球上からなくなってしまう国
地球上の水の約97.5%は海水で、淡水 (真水)は約2.5%しかありません。このうちの70%は、南極、北極などで凍っています。
地球の温度が上昇し、この氷が溶けはじめています。北極や南極にある氷も、広い範囲で失われつつあります。北極海の氷が失われると、ホッキョクグマなどの動物はすむ場所を失います。
地球の海面の水位は、1901 〜2000 年の100 年間で17cm 上昇しました。
その原因の1 つは、南極やグリーンランドなど陸地にある氷が溶けだしていることです。ちなみに北極海の氷が解けても海面上昇に影響しません。氷の入ったコップに水を注ぎ、その氷が解けたときに水があふれるか観察してみてください。コップから水があふれないことがわかります。
もう1 つの原因は、温度の上昇によって海水の体積が増えていることです。
南極の氷の10 分の1 が融解するだけで海面が7 m上昇します。すでに南極の気温は2.5 度上昇し、房総半島くらいの大きさの巨大氷山がいくつも流出し始めています。今後100 年で両極の気温は10℃以上の上昇が予測され、今世紀末には北極海の氷がなくなるとNASA が警告しています。
2014 年、NASA の研究者は「南極の氷が将来崩壊せずにすむ限界点を超えた」と発表しました。
前述したように、IPCC が2013 年に「世界の平均海面が今世紀末に最大0.82 m上昇する」と報告していましたが、NASA の研究者は、「この見通しも上方修正が必要になる」と指摘しています。温暖化する海の影響により氷床の融解に歯止めがきかなくなり、将来の大幅な海面上昇は避けられないとみています。
海面が上昇すると、海抜の低い土地は海に沈みます。たとえば、イタリアのヴェネツィアなどの海抜の低い都市、南太平洋に浮かぶツバルやインド洋のモルディブのような海抜1 〜2 mほどの場所は、海面上昇によって沈むと心配されています。
また、海面が上昇すると、海抜の低いところにある井戸に、海水が入ります。そうすると貴重な淡水が失われます。
このように気候変動によって多くの人々の生活の場が失われます。こうした人たちは「環境難民」と呼ばれます。
南太平洋に浮かぶ群島国ツバルは、気候変動による海面上昇で、地球上から姿を消す最初の島の1 つです。ツバル共和国はやせ細り、首都のあるファンガファレ島は、すでに海上に線を書いたような島になっています。島の長さは約10km ほどですが、幅は広いところで700 m弱、狭いところでは10 mほどしかありません。危機感を抱いたツバル政府は、住民の大移住を検討するなど具体的な対策に乗り出しました。