企業の水リスク(41)地域で水の循環利用をすすめる

個別利用、個別排水の問題点

もう1つ課題として残っているのは、地域での水の循環利用です。
現在、水はそれぞれの地域でそれぞれに取水され、使用後は排水されます。川の上流で棄てられた排水が混じった水を、下流の人々が利用しているといった例は、いたるところで見ることができます。人間は誰しも川の途中に住んでいます。川は上流、中流、下流と1つにつながっています。そこから飲料水、生活用水、工業用水、農業用水を得ています。そしてつかった水を流します。それが生活排水、工業排水、農業排水です。

自分のところに流れてくる水にはあれこれ気をつかうのに、自分のところから流れていってしまう水には無神経になりがちです。

家庭からは大量の生活排水が流れていきます。食べ残し、飲み残し、水洗便所から出るし尿、おふろの残り湯などなど。こうした生活排水が川や湖や沼に流れ込んで、水を汚す原因になっています。

上流の水源地の水が汚れていたら、その影響は中流にも下流にもおよびます。限られた水資源をいかに美しく保ち、有効につかうかを考える必要があります。

それにはまず美しい水の生まれる環境を育てることが大切です。これまでは汚れた水をきれいにしてつかうという発想でした。たとえば上水道の水源が汚れていたら、取水後の浄水処理を強化して対応しています。それより重要なのは、積極的な水源地の保全や水源となる湖沼の浄化です。

栄養分の高い排水で別の作物をつくる

これまでは農業集落排水(生活排水)処理水や使用した農業用水が、河川に放流されていました。今後は、農業集落排水処理水を農業用水に利用します。稲作などに用いた水も浄化して、農業用水に再利用します。

また、排水を利用して別の作物を育てることができます。養分が必要な作物からさほど栄養分の必要としない作物へと水を循環させます。

下水処理水が食料生産につかわれるケースもあります。ペルーのリマでは処理済みの下水でティラピアを生産しています。インドの東コルカタ湿地では、養殖場や野菜畑で独自の下水再利用システムを採用しています。下水に含まれる養分で魚や野菜を育て、その後の水をインド洋に流すため、水質改善にも役立っています。

さらに大きくとらえて、農業と工業の連結も考えられます。いままで使用した農業用水は河川に放流されています。これから稲作などに用いた水を浄化処理して、冷却水などの工業用水に再利用することもできるでしょう。また、食品工場などから出される栄養分の高い水で野菜を育てることもできるでしょう。このように地域でカスケード利用を考えていく必要もあります。

窒素・リンを排水から取り出す

私たちが利用している水道水もより効率的な方法を模索する必要があります。いままでは大規模浄水場で処理された水を供給され、排水は大規模下水処理場で処理されていました。このため河川流量の減少や大量の汚泥などが発生します。

じつはリンは肥料に欠かせない物質ですが、産出国が偏在していて、残存量も限られています。日本のようにリンがまったく採れない国は、リンを循環利用するしくみを構築しなければなりません。生活排水などに含まれるリンを回収すれば、そを肥料として再利用することができます。

それにはし尿分離トイレがよいのでしょう。尿と便をそれぞれためたものをし尿処理場にもって行き、別々に処理します。その際、窒素やリンを回収し、再度肥料化して農業に利用できます。生活排水はし尿を除けば雑排水だけなので、それは合併浄化槽の技術できれいに処理できるでしょう。

これまで生活用水、農業用水、工業用水と個別に利用し、個別に排水処理されていました。今後はそれぞれがより効率のよい方法で連携していくことが大切です。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所