企業の水リスク(11)水を調達したり浄化する価格が 上がるというリスク

調達や浄水にかかるコスト

企業の生産活動には水が不可欠です。水が不足したら、調達にコストがかかります。水が汚染されたら、浄水にコストがかかります。いずれにしても生産にかかるコストが増えることになります。

中国のケースで考えてみましょう。中国は水不足、水汚染が進んでいます。とくに北部は厳しい状況です。水不足を解決する国家戦略として「南水北調」が行われています。

1952年、毛沢東主席は「南方は水が多い。北方は水が足りないので、南方から借りたい」といいました。長江の水を3つのルートで北部に送る工事は2002年にはじまりました。海河、黄河、淮河に流して北部の水を確保しようという計画でした。

ところが長江の水はすでに汚染されています。急速な経済発展を成し遂げた裏で、工場廃液、農薬などが大量に川に流されていました。

 

これでは水の問題を解決できません。たしかに水はやってきます。でも、それが汚れた水ですから、つかうためには浄水が必要です。輸送と水質浄化のコストが加算されると、北京の水道料金は3、4倍に上がるとされています。

企業がこの水をつかう場合も、現在の数倍の値段で買うことになるでしょう。

水の値段が上がると食品の値段が上がる

また、食品価格は水不足の影響を受けて変動します。

たとえば、近年、米国では干ばつが続いています。そのためトウモロコシ、大豆、小麦など主要な穀物の価格が上がりました。さらに、家畜のえさでもある穀物価格が上昇したことで、食肉や乳製品の値段も上昇しました。

オーストラリアでは、近年、頻繁に大規模な干ばつが発生し、最大の灌漑地域であるマレー・ダーリング流域で、水の流れがとぎれとぎれになる断流現象が発生しています。

こうしたなか2004年、政府主導で水料金の二階層化が検討され、また、マレー・ダーリング流域庁は、流域の取水制限量を定め、水源保護のために下流住民に付加的税を課すようになりました。

さらに連邦政府は、灌漑農業者からの水利権の買戻しをはじめ、全国的な水市場の導入、水使用や水利権の情報を国レベルで集約する国家水勘定の整備を進めています。

これによって水の価格が上がっています。オーストラリアから農業製品を輸入している会社は多いでしょう。水の価格の値上がりは、食料品の価格上昇に結びつきます。

このように日本が大量の穀物を輸入しているアメリカ、オーストラリアは水不足です。野菜の輸入先1位の中国でも、水不足と水汚染が広がっています。輸入農産物・畜産物に依存する産業は、原材料の価格が上がれば、コスト増になるでしょう

 

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所