アクティブラーニングは質問にはじまり質問に終わる 橋本淳司

子どもは質問できるのに大人が質問できない理由

大学や高校で「水」をテーマにしたアクティブラーニングのサポートを行っています。ここではアクティブラーニングのカギを握っている「質問」についてまとめます。

質問といってもいろいろあります。

専門家への質問、チームへの質問、自分自身への質問などさまざまですが、「問いを立てる」ことが考え始めたり、考えを深める力になります。

誰でも子どもの頃は「これ、なあに?」、「どうしてそうなるの?」などと質問します。

だから質問は誰でも簡単にできると思われています。

でも、実際にはそうではありません。大人の会議や勉強会でも「何か質問のある人?」、「せっかくの機会ですからどんなことでも質問してください」と言われて手をあげる人はあまりいません。

すべてを理解したから質問しないという人は少ないでしょう。

何を理解しているか、理解していないかがわからないから質問できないこともあるでしょう。

本当は「さっき○○といっていたのは、△△ということですか」という確認の質問があってもよいと思いますが、「あんな下らないことを聞いている」、「つまらないことで無駄な時間を使わせないでくれよ」などと、周囲の反応を心配しているのでしょう。

アクティブラーニングにおける教員の役割は「安全な場」をつくることです。チームが信頼を基盤に、円滑なコミュニケーションとチームワークが図れる場、安心して質問できる場をつくることも重要な役割です。

そのためにグランドルールを用意することもあります。

たとえば、話し合いの内容は外部に漏らさない、この場に集中すること、すべてのメンバーは平等であり、お互いの尊重することなどを事前にチームで決めておきます。

 

質問はギフトという考え方を定着させる

「質問とは何か」と生徒に聞くと、大抵「教えてもらうこと」と答えます。

質問者が回答者からギフトをもらっている感覚です。

ですが実際には質問は回答者やチームへのギフトです。

なぜなら脳は質問によって動き出すからです。

質問によって自分の考えが整理されたり、思いもかけないアイデアが浮かんだという経験がありませんか。

私自身子どもたちからの素朴な質問によって考えがブラッシュアップされたことが何度もあります。

質問が飛び込んでくると脳は回転数を上げて、答えを見つけようとします。

もしチームでいろいろな質問をし合い、チーム全員で質問に答えていくことができれば、チーム全員の脳がフル回転するでしょう。質問はチームへの贈り物なのです。

すなわち質問することは相手やチームへの貢献なのです。こうしたことを繰り返し伝え、質問に対するイメージを変えていきます。

質問に慣れるためのカード

質問がたくさん出るには、雰囲気づくりと同時に多少のコツも必要です。

質問に慣れるために、質問カードをつくりました。カードは「ゴールを聞く質問」、「行動をはっきりさせる質問」、「優先順位を決める質問」、「これまでを振り返る質問」などいまのところ16枚あります。

 これを中央に伏せておいて、メンバーが1枚ずつめくりながら、チーム全体に対して質問し回答していきます。

質問が技として身につければ、自問自答して難局を切り抜けることもできますし、チームの活動に深みを与えることもできます。

外部の人の質問が研究を深める

 学習の成果はさまざまな形で発表されます。発表会のよさは見ず知らずの人に質問されることです。

普段は問題を理解している人が集まって話し合います。

そこでは問題の背景に関する質問などは滅多に出ません。全員が「そんなことはわかっている」と思っています。ある意味スムーズに話し合いが進みますが、じつは問題の本質をとらえていなかったり、本質がわからないまま解決策を模索したりすることがあります。

その点、問題の背景やチームの活動経緯を知らない人は、新鮮な質問をたくさんしてくれる貴重な存在です。新鮮な質問はメンバーの脳を活性化し、同時に本質を浮き彫りにする可能性を秘めています。

私が授業のサポートをしていた静岡県立三島北高校では、毎年11月のオープンスクールでポスターセッションを行いました。

生徒は5、6人でチームをつくり、それぞれに設定した課題と解決方法をポスターにまとめ、来場者と質疑応答や意見交換をしました。

 あるチームはエチオピアの水不足の集落で水を運ぶ方法を研究しました。

その集落では遠く離れた水場まで水をくみに行きます。なかには片道3時間かけて20リットルの水を運び地域もあります。水くみは、多くの国では女性や子どもの仕事となっています。多くの時間を費やすため、働くことができなかったり、学校で勉強できなかったりします。

彼らが最終的にたどりついたのはエチオピアの廃自転車の活用でした。

 タイヤのスポークとスポークの間に水を入れる水筒のような容器を装着すると、1つのタイヤで8リットルの水が運べます。タイヤを4つ組み合わせた装置を作ると32リットルの水が運べますし、ゴムタイヤであれば急峻な岩山や砂利道にも対応可能という発表でした。32リットルの水を手で運ぶのはとても無理ですが、装置を転がすことで水汲みの労働は軽減されます。

これに対して参加者から、「自転車をどのように集めるのか」、「自転車のタイヤを加工する道具や技術は現地にあるのか」、「この装置を売るのか、それともこの道具を使って水くみを商売にするのか」などの質問が出ました。

いずれも新鮮な質問であり、生徒たちは新たな課題を得ることができました。

質問のシャワーが意見の質を高める

12月には、都内の立教大学においてアクティブ・ラーニングを行っている高校生の課題研究発表会が行われました。このときのポスターセッションの時間は60分あり、その間、代わる代わる人がやってくる人とセッションを行います。だいたい5〜6セッションできるでしょう。

 生徒の様子を見ていると、セッションを重ねるごとに説明や意見交換の質が高まっていくのがわかります。

参加者からよい質問や意見をもらいながら、60分の間に生徒たちが急成長していきます。

もちろん、現場で即興的に答えてしまうことが多いので、質問はコレクションし、学校に帰ってから1つ1つチームで考えていきます。

学校外で行われるセッションは他流試合のようなものです。他流試合なので批判的な質問も飛んできます。

課題を共有するために伝え方も工夫しなくてはならないし、多様な質問や意見をもらいながら課題解決案を考えていくので、いろいろと鍛えられます。

こうした経験をもっと多くの生徒にさせてあげたいと思いました。

教員の役割はやはり場をつくることだと思います。

質問によって課題は進化する

アクティブ・ラーニングを行う多くの教員が「課題設定がむずかしい」と言います。

困った問題はわかっても、その何が課題なのかを見抜くのは大人でも至難の技です。私の経験では、「自問自答」を続けるチームは課題を進化させていきます。おかしな言葉ですが「チーム問チーム答」です。

あるチームは最初、豪雨災害が頻発している状況を調べ、「豪雨災害をなくすこと」を課題として解決方法を考えていました。

ですが、少したつと行き詰まりました。

豪雨災害をなくすことは難しいからです。「本当の課題は何か」と再考し、「豪雨時にいかに被害を減らすか」に変わりました。

近年の広島、茨城、岩手、北海道などの豪雨災害について調べ、どうしたら被害を抑えられたかを分析し、情報の伝達や避難の重要性を知りました。では、それが課題なのかと尋ねると、「何だかしっくりこない」と、さらに考え続けました。

地元では何が重要なのかと、誰が困っているのかをチームで話し合った結果、「豪雨災害が起きたときに、一人暮らしの高齢者をいかに避難させるか」を課題にしました。

このように課題は学習の深まりとともに進化します。最初からよい課題を設定できないと苦しまず、まずは設定した課題の解決方法を探ります。すると「どうもこの課題設定は筋が悪い」と感じます。そのときに課題を再設定し、再出発します。けっしていままでやってきたことが無駄になるわけではないのです。

さらに、あえて批判的な質問を考えることもします。チームの和、友だちとの関係を気にするあまり「やさしい質問」をしがちになります。それでは研究は停滞するし、「あまい解決方法」しか生まれません。

そこで「自分の人格と質問」は別ものだと話したうえで、「今日は鬼キャラになって批判的な質問をしてみよう」という機会をあえてつくります。このときは「鬼カード」を渡し、そこに批判的な質問を10個記入します。そして、相手に渡します。

これも大いなるギフトなのです。

3年間アクティブ・ラーニンングを経験した生徒は、「質問はギフト」を実感したと言っていました。

「ポスターセッションに参加してくれた人から質問され、以前はきちんとした答えができるかと不安だったり、変な質問をされないかと怖かった。でも、そうじゃない。この場で質問にきちんと答えることがすべてじゃない。自分たちが考えもつかなかった新しい発想をもちよって、課題を解決していくことが楽しくなった。だからもっといろいろな人の意見を聞いてみたい」

「友達の意見や質問をもらいながら、知識が増えたり、視点が変わったりして、すごく新鮮だった。自分が考えて、行動していけばまわりの景色がどんどん変わる。でも考えや行動が停滞しているときはつらい。しばらくしてから、そういう「もやもや」も大事なんだって思えるようになった。反射的に答えをだすことがすべてじゃない。「もやもや」を抜けた時に必ず何かがある。私たちはたまたま水をテーマにしていたけれど、問題を解決するときには、現場の人の声を聞いて、まわりの人の意見を聞いて、最善な手段で相手に貢献していくということには変わりはないと思う」

質問によって大きく成長したことがうかがえます。

アクアスフィア・水教育研究所