あなたの衣服が水を枯らし、水を汚す
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衣服が水を使うというと、洗濯をイメージするかもしれません。
でも、それだけではないのです。
リーバイ・ストラウス社が、ジーンズができるまでのあらゆる工程で使われる水について調査したところ、綿花生産にもっとも多くの水を使用していました。
綿花の多くは、中国、インド、パキスタンやアラル海周辺でつくられています。
綿花栽培には、大量の水が必要です。
たとえば、Tシャツ1枚をつくるには、250グラムの綿花をつかい、それをつくるのに2900リットルの水が必要です。
綿花栽培地域では大量の水を使います。たとえばアラル海周辺では大量の水が使われたために、湖が干上がってしまいました。
こうした企業活動はサスティナブルとはいえません。
リーバイ・ストラウス社は、この対策として、2009年から「ベター・コットン・イニシアティブ」に参加しています。
ベター・コットン農法は、より持続可能な綿花栽培を目指しています。
水使用や農薬使用をなるべく減らし、さらに健全な労働環境と収益性の向上を目指しています。
パキスタンでの実証実験では、水と農薬の使用量が約32%減り、収益性は69%向上しました。
ベター・コットンを使用することにより、綿花栽培にかかる水の量を減らすことができます。
綿は、世界の繊維業界で使用される全繊維の45%を占めているため、水の消費量を大幅に削減することは、この分野の巨大なプロセス改善となるでしょう。
衣料品は染色の工程でも大量の水を使い、排水には環境に悪影響を与える物質を含みます。
排水にはクロム、鉛、カドミウム、硫黄、硝酸塩、塩素化合物、ヒ素、水銀、ニッケル、コバルトが含まれます。
クロムは発癌物質であり、鉛は成人の小児および心血管疾患の神経および発達障害を引き起こします。
インドのタミル・ナードゥ州ティルプールは、インド政府が1990年代に経済改革と自由化を導き、「インドのマンチェスター」と言われるようになりました。
インドの繊維輸出量は中国に次いで世界第2位。そのうちの75パーセントがティルプールで生産されています。
しかし、急速に普及した繊維産業によってもたらされた大気汚染、土地汚染、水質汚染は深刻です。
インドは、1982年に汚染管理委員会(PCB)を設立し、監視・抑制を行おうとしました。
しかし、監視・抑制は根本的な解決には結びつきませんでした。
まず、PCBは1996年に、織物企業に排水の色を除去するよう指示しました。しかし、着色剤を除いも、他の化学物質は水や土壌に影響を与え続けました。
4年後、PBCは排出量の抑制を指示しました。そのため企業は大量の土地を汚染された排水で満たし、土壌と地下水を破壊しました。また、多くの企業は排出抑制ができず、流出物を近くのノイヤル川に流し続けました。
2004年に、PCBは汚染ゼロの液体排出を工場に依頼するようになりました。
しかし、ティルプールの農地は破壊されました。
半径20kmの広大な土地は、不毛の赤い土であり、低木が点在していました。農民たちは抗議活動を始め、生計を立てていた激しい公害の抑制を要求しました。
西ベンガル州ナディアの地区では、繊維工場からの排水が地下水に影響を与えました。塩化物濃度、生物学的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求(COD)などの水質指標が基準値を超えています。
こうしたことから「織物染色産業は環境上有害である」と言われるほどです。
企業は衣料品製造過程での環境負荷を極力減らし、私たちは、そういう会社の製品を選んで買うべきです。