企業の水リスク(36)水問題はローカルな問題

地域社会の持続可能性を考える

これまでグローバル企業の例などをあげながら、水リスクについて、水リスクへの対応策について話してきました。

水リスクをはかるグローバル社会共通のものさしができたり、リスク対策も標準化されたりしているのをみると、「どうやら水問題を解決するグローバルスタンダードのようなものがあるのではないか」と思うかもしれません。

たしかに、「ISO14046」やCDPウォーターディスクロージャーなどグローバル社会共通の大きな方向性は示されています。ですが、水の問題がどう顕在化するかは、地域の環境によってさまざまです。ですから、具体的なアクションを考えるときには、ローカルという視点が大切です。

地域の水不足を解決しようとすると、普通、水をためたり、水をきれいにしたりと、水に注目した行動が思い浮かびます。それはそれですばらしいのですが、できるのはそれだけでしょうか。

いえ、そうではありません。なぜなら「水は万物の父」といわれるように、あらゆるものに関係しており、たとえば、私たちの暮らしに欠かすこのできない森、食料、エネルギーなどと密接につながっています。

なぜ水問題の解決を考えているかというと、持続可能な地域社会をつくるためです。

持続可能な地域社会には水があればいいわけではなく、そのほかに森、食料、エネルギーなども必要なので関係性を合わせて考える必要があります。

企業は所属する地域の持続性に責任をもつ必要があります。グローバル企業であっても、1つ1つの拠点は地域の資本を活用しているからです。それこそが企業の持続性につながるからです。

そのときヒントとなるのがFEW(森(Forest)、食(Food)、エネルギー(Energy)、水(Water))の最適な関係を模索することです。まずは、それぞれの関係についてみていきましょう。

食と水の関係

食料は水がないとできません。企業がつかう原材料もそうです。一方で農業生産につかわれる農薬や肥料は水を汚します。さらに食べ残しが河川などに捨てられると水を汚しますし、そうならないよう残飯を処理すると大量の水が必要です。食料生産には水を汚すという側面があります。地下水汚染を引き起こす汚染物質の代表は硝酸・亜硝酸生窒素ですが、これは農地で過剰に用いた窒素肥料や畜産の排水・家庭排水などから供給された窒素化合物が、土壌中で分解されてできます。

欧州の農業地帯では、水をめぐり、農業と環境保護団体が対立することがあります。農業につかう化学肥料や農薬、農場にたい積した、し尿を原因とする汚染が、水源に悪影響を与えるからです。

食べ残しの処理も水を汚します。日本は食料を世界中から買い集めているわけですが、世界一の食べ物をムダにする国でもあります。食品関連の事業から出る廃棄物は年間約1916万t(2012年度、農林水産省調べ)。業種別にみると、食品製造業が1580万t、食品卸売業22万t、食品小売業が122万t、外食産業が192万tです。また、一般家庭から出る廃棄物は年間1032万tあります。

日本人が食料を効率的に使用し、輸入量が減れば、穀物の売価も世界的に下がり、貧困に悩む途上国の人も食料が買えるようになります。

それは水を大切にする行動なのです。食べものをつくるにはたくさんの水が必要です、食べものを捨てるとはたくさんの水を捨てたのと同じです。

さらに食べ残しが川などに捨てられたら水が汚れ、元に戻すために大量の水が必要になります。

森と水の関係

木が成長するには水が必要です。森林の土壌は水をきれいにしたり、ためたりする力があります。現在、日本でつかわれている木材の多くは外国産のものです。国産の木材が使われていないため、森が放置され、荒れています。そのため森の保水力や浄水力が弱くなっています。

エネルギーと水の関係

浄水場で水をきれいにし、ポンプで家庭まで運ぶにはエネルギーが必要です。下水再生、海水淡水化プラントなどではさらにたくさんのエネルギーが必要です。
森、食、エネルギー、水はこのように関係していますから、関係性を考えながら、地域のなかで最適化をはかるとよいでしょう。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所