企業の水リスク(21)自社工場での節水はすすんでいる

水使用量の多い化学工業と鉄鋼業

製品をつくるときには、工場内でたくさんの水をつかいます。

身近な製品を見ると、清涼飲料水350㎖缶には6ℓ、ビール500㎖缶には8ℓの水をつかいます。

水とは一見無縁の工業製品にも、たくさんの水がつかわれています。携帯電話には910ℓ、パソコン1台に4000ℓ、自動車1台に6万5000ℓの水がつかわれています。

日本の工業用水の8割近くは、冷却や加熱用水としてつかわれます。次に多いのが製品処理や洗浄です。業種別では、化学工業と鉄鋼業での使用量が多く、合わせると総使用量の6割以上に相当します。それに続くのが、パルプ・紙・紙加工品製造業です。

製品1tを生産するのに必要な水の量を見ると、鋼鉄で100㎥、アルミニウムで190㎥、新聞紙で220㎥必要です。

これを身近な数字に置き換えてみると、1円玉(アルミニウム1g)1個つくるのに190ℓの水が必要、朝刊一部(200g)には44ℓの水が必要ということになります。

日本国内での工業用水使用量は減っている

では、製品をつくるときにどんな水をつかっているのでしょうか。

工業用水には、各工場が自ら取水する地表水や地下水、上水道事業や工業用水事業体から供給される水などがあります。ですが、日本国内での工業用水使用量は減っています。その理由は、3つあります。

1つ目は、高度成長期には、工業用水の使用料も急テンポで増加してきましたが、その後、産業構造の変化が起き、自動車、ITなど比較的水使用量の少ない産業が伸びたことです。

2つ目は、生産拠点である工場がアジア諸国などに移ったことです。

3つ目は、水の3R(リデュース、リユース、リサイクル)がすすんだことです。とりわけつかった水を何度も繰り返してつかう水のリサイクルが進みました。

工業用水のリサイクルは、1965年には36%でしたが、2012年には78%がリサイクルされています。

 

 

 

 

水使用量の少なさがブランド・コンセプト

節水型の商品も開発されるようになりました。

海外の例ですが、ジーンズで有名なアメリカのアパレル会社、リーバイ・ストラウス社は、環境にやさしいジーンズをつくっています。

ジーンズの最終加工の工程では、洗浄と乾燥を行います。たとえば「色落ちジーンズ」の加工には洗浄と乾燥が繰り返されるので、たくさんの水をつかいます。そこで、水・エネルギー・薬品の使用量を最小限に抑えられるオゾン加工を導入しました。

ストーンウォッシュ加工から水を除くことなどに取りくみ、結果として、水使用量を96%削減した製品を開発しました。

この製品は、水使用量の低減をブランド・コンセプトとして発売されました。売上は約1300万本。通常の製造方法のジーンズと比較すると、1億7200万ℓの水消費量を削減したことになります。

水の3Rがすすみ、さらには節水をコンセプトとした商品開発も行われています。そのため、水への対策はすでに終わっていると感じる経営者が多いのです。

しかし、そうではないのです。自社工場を超えた水対策が必要になっているのですが、それについては次ページからお話ししていきます。

 

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)
アクアスフィア・水教育研究所