企業の水リスク(14)水豊富な日本の企業は、 水リスクに無縁か?
日本には水があるからリスクもない?
比較的水の豊富な日本で活動する企業には、水リスクは関係ない話でしょうか。
日本国内の工場が水不足で操業できなくなるケースにはどのようなことがあるでしょうか。たとえば、渇水が起きたら企業活動が停滞したり、中断したりする恐れがあります。災害時には水道が止まり、企業活動はストップします。
ですがいまのところ、事業が長期間にわたって中断するような深刻な渇水はあまり考えられません。ですから「うちの会社には水リスクなんて関係ない」という経営者が多いのです。でも、本当に大丈夫でしょうか。
海外に目を向けてみましょう。あなたの会社は、海外に支社や工場がありませんか。もし、そこで水不足が起きるのであれば、あなたの会社は水リスクをかかえていることになります。どういう地域で水不足が起きるのか、国連環境計画が水不足の地域を予測しているのが下の図です。
2025年には、インドなどの南アジアにも水不足が広がっていきます。東南アジアではタイ、東アジアでは中国、韓国、北朝鮮に広がっていきます。こうしたところに支社や工場はないでしょうか。
原材料生産の場が水リスクに直面
海外のサプライヤーが水リスクをかかえていることもあります。日本企業の多くは、原材料や部品を海外のサプライヤーに頼っています。
企業活動は自社だけでは成り立ちません。いまやサプライチェーンが大切です。サプライチェーンとは、ある製品の原材料が生産されてから、最終消費者に届くまでのプロセスのことです。
最近では、ブランドはもっているけれど、モノづくりは行っていないというケースも増えています。そういう企業の場合、一見、水リスクと無縁のように思えます。
ですが、サプライチェーン全体を見るとまったく違います。原材料生産や部品生産において、どの国のどの地域の水環境に影響をあたえているのかを考える必要があります。
いままでの考え方では、企業が責任をもつのは自社の範囲でした。CSR報告書もその範囲でまとめられていました。しかし、実際の環境や社会に対する影響を考えると、サプライチェーンを考えないわけにはいきません。
グローバル化が進展した現在、日本企業もサプライチェーン、バリューチェーンのなかに、必ず水リスクを抱えています。
2012年、環境分野における保証業務を行うKPMGあずさサステナビリティと英国の環境調査会社であるトゥルーコストが、日経平均採用銘柄225社の操業とサプライヤーの水消費量を分析しました。すると操業における水の平均使用量は年間約190億tでした。その一方で、サプライヤーは年間約600億tの水を使用していました。
つまり、サプライチェーン全体での水使用のうち、76%はサプライヤーで水をつかっていることになります。日本企業は、企業活動に必要な水のほとんどを海外に依存しているのです。
サプライヤーが水不足などから原材料を生産できなくなる、操業できなくなることがあるでしょう。あるいは水の調達コストが、原材料や部品のコストに反映されて、原材料価格、部材価格が上がることもあるでしょう。
そうなるとのんびりしてはいられません。サプライチェーンを個別に当たりながら、それぞれがどれくらいの水をつかっているのか、排水は大丈夫かなどと点検していく必要があります。そして、自社やサプライヤーが依存する水資源に対するリスクを把握する必要があります。
場合によっては、生産拠点を比較的水資源のある国内に回帰させるという選択肢もあります。その場合、持続可能な企業運営を目指すなら、水情報の開示と、積極的な水資源保全を行うことが重要になります。
「日本には水問題がない」という認識は、前提を誤った思い込みです。
日本では食品、工業製品など、海外の生産拠点で製造されたものを消費しており、食品も工業製品も生産には大量の水を使用します。
つまり、生産拠点で水が大量に使用されています。
海外の水も有効に活用して生産活動を行い、さらに水を使用している地域の水保全を行うことで、グローバル企業としてサスティナブル活動に取り組んでいるといえます。
欧米企業は環境基準を遵守する意識が非常に高く、進出国の各地域の環境基準は当然クリアした上で、自国の基準進出先であってもクリアする、という意識が備わっています。
日本企業も欧米企業のように世界各地の再委託先まで含めたサプライチェーン全体の水使用・排水状況に目を配る意識を高める必要があります。
そうした姿勢でサプライチェーンを管理しなければ、「地域の水を奪う企業」というレッテルを貼られ、生産拠点から撤退を余儀なくされるリスクが日々高まっていくことを認識する必要があります。