湿地が森林の3倍の速さで消えている〜ラムサール条約初の報告
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世界中の湿地が減っています。
ラムサール条約事務局の報告によると、1970年から2015年までに、世界の湿地の約35%が消滅しました。
ここでいう湿地には、湖や川の周辺、沼地、ラグーン(潟)、マングローブ、サンゴ礁などの沿岸地帯や海洋区域も含まれます。
湿地は世界中に1200万平方キロメートル以上ありますが、消滅速度は2000年以降加速していると、報告書は指摘しています。
湿地が失われた原因は、土地利用の変化(農地と放牧地の増加) 、ダム、水路、運河による水の流れの変化、インフラ開発(都市や川の流域、沿岸部における開発) などが原因です。
でも、「湿地が減ることが、生活にどんな影響があるのかな」と思うかもしれませんね。
湿地は大事なんです。
まず、湿地は私たちにとって重要な淡水の供給源です。地下の帯水層にも水を補給します。アジアでは約20億人、ヨーロッパでは約3億8000万人の人々が、地下水で生活しています。
食糧供給源でもあります。市場に出回る魚のほとんどは、一生のうちの一定期間を沿岸の湿地ですごしますし、湿地の一種である水田で栽培される米は30億人の主食です。
汚れた水を浄化する働きもあります。湿地にはたくさんの微生物群集がすみ、植物が生えています。これらの生物は水のなかの有機物を分解したり、水のなかの二酸化炭素を吸収し酸素を供給する役割を果たします。
干潟や川の底の土壌にもたくさんの生物群集がすみ、家庭、農地、工場から出た汚染物質を分解してくれます。
さらに、治水の効果もあります。自然の緩衝材としての湿地は、自然界のスポンジのような働きで降った雨を吸収し、表面に広く水をため、河川の氾濫を抑えます。
新潟大学農学部・吉川夏樹准教授は、2011年7月の新潟県中越地方豪雨時の田んぼダムの効果を検証。総面積3600haの水田群は、ピーク時167万tの雨水を広く薄くため、浸水被害を軽減させました。
湿地は、飲み水、食べものを育み、洪水も抑制します。母親のような包容力で私たち人間だけでなく、多くのいきものを守ってくれています。
水を大切にしたいと思ったら、湿地を大切にすることです。