「地域の水を語れる人になろう」(東京都昭島市での実施報告)

1回目は体験型の水教育プログラム「プロジェクトWET」の講習会

アクアスフィア・水教育研究所で、東京都昭島市の「昭島の水を語れる人になろう」というプロジェクトをサポートしました。

このプロジェクトの目的は、市民が、地域の子供たちに、地域の水の話ができるようになること。

 

1回目は体験型の水教育プログラム「プロジェクトWET」の講習会を行いました。「プロジェクトWET」はゲーム感覚で楽しみながら水について学べるアクティビィが約200以上あります。

たとえば、「みんなの水」というアクティビティは人口増加や産業発展にともなう地下水利用の変化を考えるものです。10リットルの水が入った桶を地域の水に見立て、講習会場の中央に置きます。参加者はその周りにスポンジを持って集まります。スポンジは井戸もしくは水をくみ上げるポンプを表しています。

最初は200年前の水利用をシミュレーションします。小さな農家役の参加者3名が、小さなスポンジとコップを持ち、30秒間(30秒=1年というルール)、水を汲み上げます。3人の年間水使用量は300ミリリットルほどでした。

次に100年前の水利用をシミュレーションします。利用者は、小さな農家役3人、小さな工場役2人、中規模な農家役1人、一般家庭役3人。30秒間スポンジを使って桶から水を汲み上げると、量は数倍に増えます。さらに50年前になると小さな農家役4人、大規模な農家役2人、小さな工場役5人、大きな工場役2人、一般家庭14人と増えます。

50年前といえば高度経済成長期、利用者が増えて水利用量が増えると同時に、不適切な利用者も現れます。あらかじめ一つのスポンジに切れ目を入れ、茶色の絵の具を少し入れておくのですが、水を汲み上げているうちに桶の中の水が濁ってきます。

アクティビティを終えたのち、今後の地下水利用はどうあるべきかをざっくばらんに話し合います。たとえば、地下水ルールについて、「流域全体の地下水量、使用状況などの調査を行い、見える化を図るとよい」、「過剰な利用や汚染に関する規制(排水の水質基準をつくり基準を超えた場合には使用の停止)が必要」、「地下水の涵養を促進するべき」などの意見が出た。

2回目は昭島の水辺を歩く

住み慣れた街の風景も、子供たちに授業をする準備となると視点が変わり、再発見の連続となります。

たとえば、市内にある諏訪神社からの湧水は東に流れています。旧家の黒塀の前に水路があり、おだやかに流れる水に歩調を合わせながら進むと、歩いて3分ほどの民家の裏庭に20坪ほどのワサビ田がありました。

地元に住んでいながらも「まさか都内にワサビ田があるなんて」と歓声が上がりました。

鈴木家裏手の崖下から湧き出る清泉は清流となって、東方の中神本村域に流れていきます。その流路にあたる宮沢・中神という2つの地区では、軒先や門前を流れるこの水を、古くから飲み水や米とぎ、風呂の水などに利用してきました。

ここで「水の講」の話を聞きました。

これは宮沢・中神という2つの地区の20数軒で構成される水利維持管理のための組織です。先人たちの生活の必然性から生まれた生活共同組合的な組織で、水を使うときは、堀で洗濯してはならないとか、使用後の汚水や汚物を捨ててはいけないといった、いくつかの取り決めもされています。

参加者からは「昭島は水豊富な土地ではあるが、先人たちの努力によって現在があることに気づいた」という声が上がりました。

同行した地質の専門家からは昭島の地下水の流れについて解説がありました。

市内で利用している地下水は、浅い地層の水と深い地層の水に分けられます。浅い地層を流れる地下水は北西から南東に向かって流れ、標高に準じています。

一方深い層の地下水は、それとはまったく逆に南から北へと流れています。昭島市水道局が汲み上げている水は深い層の地下水、まちなかで昔から使っている井戸水は浅い層の地下水が多く、同じ昭島の水と言っても出自が違うのです。2つの水を飲み比べながら、見えない地下世界に思いを馳せた。

こうした経験をプロジェクトWETのアクティビティに加え、昭島流のプロジェクトWETをつくります。

3回目は子供たち向けのワークショップを開催

2018年11月18日(13:00〜14:30)、昭島市環境コミュニケションセンター(東京都昭島市)において、「みんなで体験 昭島流プロジェクトWET」が行われました。

昨年、今年の2年間「昭島の水 プロジェクト」は、昭島の水道水源である深層地下水・地下水、水循環について、市民リーダーの人材育成をすることを目標に、プロジェクトWETを活用した活動を展開していました。

 アクアスフィア・水教育研究所はこの活動をサポートしました。

 連続講座で「昭島の水を語れる人」になった人たちが、まち歩きや施設見学などを通じて、子供たちを対象に「昭島流プロジェクトWET」を披露しました。

【実施した4つのアクティビティ】

青い惑星…地球型のビーチボールを投げて遊びながら、陸と海の割合に気付くアクティビティ

大海の一滴…地球上の水すべてを1Lの水に例え、それらのうち私たちが使用可能な淡水がどのくらいの量であるかを学ぶアクティビティ

驚異の旅…サイコロを用い、「地下水」や「川」「雲」「海」など水がめぐる場所をすごろくのように辿るアクティビティ

みんなの水…様々な立場の水の使用者になり、ひとつの水源を共有しながら水の使用量や水質等への配慮を学ぶアクティビティ

子供たちが楽しんで参加してくれたのが何よりです。子供たちが付箋に書いてくれた感想から、大人が学ぶ点も多かったように思いました。昭島のみなさん、お疲れ様した。これを出発点として、昭島の子供たちに水のことを伝えていってください。(橋本淳司)