日本はG7海洋プラスチック憲章に署名せず

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カナダで開催されていたG7=主要7か国首脳会議で、プラスチックごみによる海洋汚染の問題が協議され、具体的な対策を各国に促す合意文書をとりまとめた。

 現在、年間800万トンにもおよぶプラスチックごみが海に捨てられていて、漁業活動や生態系にも大きな影響を及ぼすことが懸念されている。

 G7の拡大会合は6月9日、この問題について協議し、海洋保護と持続可能な漁業の実現、沿岸部のコミュニティへの支援などを各国に促す「海洋プラスチック憲章」をまとめた。

 その要旨は以下のとおり。

「健全な海洋環境と、沿岸地域社会の持続可能性のために、海洋に対する認識をあらため、プラスチック廃棄物、海洋廃棄物の問題に取り組む。

 プラスチックは私たちの経済や日常生活において重要な役割を果たすと認識しているが、プラスチックの製造、使用、管理、廃棄に関する現行のアプローチを続けると、海洋環境、漁師などの生計、人の健康に重大な脅威を与える。

 カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国、欧州連合は、G7海洋プラスチック憲章を支持する」

 

 しかし、この憲章に、日本とアメリカは署名しなかった。

 日本政府関係者は、

「プラスチックごみを減らしていく趣旨には当然、賛成しているが、国内法が整備されておらず、社会にどの程度影響を与えるか現段階でわからないので署名ができなかった」

 としているが、業界への配慮が大きいだろう。

 

 しかし、そんなのんびりとした話ではない。

 太平洋などの外洋で、海流の真ん中の無風地帯に、プラスチックごみが大量に集まっている。中でも「マイクロプラスチック」という微細なプラスチック粒子による海洋汚染が深刻化している。

 マイクロプラスチックとは大きさ5ミリ以下の微細なプラスチック片。

 捨てられたレジ袋やペットボトルなどが、雨で川に流れ、海に至る。そこで、紫外線や波の力によって次第に小さくなっていく。

 また、ポリエステルなどの化学繊維の衣服を洗濯した際に出る繊維くず、化粧品や洗顔料に含まれているマイクロビーズという微粒子も問題だ。

 裸眼ではほとんど見えないマイクロビーズは、浴室の排水口から下水道に流れていき、排水処理の段階では排除することが困難。それにより、マイクロビーズが流れ着いたその先に生きる海洋生物達はマイクロビーズを食べたり吸収したりし、海の食物連鎖につながっていく。

 東京農工大や京大の調査によると、東京湾で捕獲したカタクチイワシの8割近くからマイクロプラスチックが見つかった。

 カタクチイワシやマイワシは、吸い込んだ水をえらでろ過してプランクトンを食べるため、餌と一緒にマイクロプラスチックを飲み込んでいる。

 また、海洋憲章の中で「人の健康への懸念」が述べられているが、プラスチックは有害物質を吸着しやすい。

 マイクロプラスチックの場合、総重量が同じでも、1つ1つのサイズが小さいほど吸着した化学物質の量が多くなる。食物連鎖で、より大きな魚や海鳥、クジラや人間などのほ乳類に悪影響が出る可能性が指摘されている。

 日本はプラスチックのリサイクルが進んでいることから「対策は十分に行っている」と考える人もいるが、実際には、河原にはペットボトルやレジ袋が大量に投棄されている。

 プラスチックの使い捨てをやめるなど、身の回りにやれることは数多くある。

・レジ袋をもらわない(折りたたみ式のエコバックをカバンにいれておく)

・ペットボトル飲料より水筒を

・マイクロビーズの入った化粧品や洗顔料は使わない

 ※主要なマイクロビーズの種類(ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリメチルメタクリレート/ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ナイロン/ポリアミド(PA)。マイクロビーズはわかっているもので67種類あります。「Poly-ポリ」から始まる製品が該当)

 こういう私たちの行動が、企業の意識を変えます。

 SDGsの「つくる責任 つかう責任」とも大きく関係した話です。

 たとえば、英・食品大手アイスランドフーズは、2023年までに、全商品でプラスチックのパッケージを廃止することを決めています。

 こうした日本企業が数多く出てくるとよいですね。そして、そうした企業の製品を私たちは選んで買うのです。お金を使うことが、よい未来への投資になります。