「国連難民の日」に環境難民について考える

 

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 今日6月20日は「世界難民の日」です。そこで気候変動にともなって発生する難民について考えます。

 地球上の水の約97.5%は海水で、淡水(真水)は約2.5%です。

 このうちの淡水の大部分は、南極、北極などで凍っています。

 地球の温度が上昇すると、この氷がとけはじめます。

 北極や南極にある氷も、広い範囲で失われつつあります。北極海の氷が失われると、ホッキョクグマなど北極海にすむ動物はすむ場所を失います。

 地球の海面の水位は、1901~2000年の100年間で17cm上昇したとされています。

 その原因の1つは、南極やグリーンランドなど陸地にある氷がとけだしていること。もう1つは、温度の上昇によって海水の体積がふえていることです。

 南極の氷の10分の1が融解すると海面が7メートル上昇します。

 すでに南極の気温は2.5度上昇し、房総半島くらいの大きさの巨大氷山がいくつも流出し始めています。

 今後100年で両極の気温は10℃以上の上昇が予測され、今世紀末には北極海の氷がなくなるとNASAが警告しています。

 海面が上昇すると、海抜の低い土地は海に沈んでしまう可能性があります。

 たとえば、イタリアのヴェネツィアなどの海抜の低い都市、南太平洋にうかぶツバルやインド洋のモルディブのような海抜が1~2mほどしかない島国は、海面上昇によって沈んでしまうと心配されています。

 また、海面が上昇すると、海抜の低いところにある井戸に、海水が入ってしまいます。そうすると貴重な淡水が失われることになります。

 今世紀末の日本では平均気温が20世紀末に比べ約5度上昇し、年間の洪水被害額は20世紀末の約3倍(最大約6800億円)と予測されています。

 海面の上昇は日本にも関係しています。

 日本の沿岸部には、満潮時に海面より地面の標高が低くなる土地「0メートル地帯」があります。

 その面積は、8万6100ヘクタール。野球のグラウンド(両翼100m?)で数えると861個分の土地です。

 こうしたところは海面上昇の影響を受け、大雨のときなどに大きな被害が出る可能性があります。「0メートル地帯」は東京、名古屋、大阪など大都市部にも広がっているので警戒が必要です。

 日本では1メートル海面が上昇すると、日本全国の砂浜の9割以上が失われると予測されています。

 大阪では北西部から堺市にかけて海岸線はほぼ水没。東京でも江東区、墨田区、江戸川区、葛飾区のほぼ全域が影響を受けます。

 水が増えて困る土地がある一方で、水がなくなって困る土地もあります。

 砂漠化です。

 地球の表面積に占める陸地の割合は約29%で、その面積は1.49億平方キロメートルです。

 この陸地のうち砂漠の占める割合は、現在、約30%にあたります。

 国連環境計画(UNEP)によると、世界の砂漠化は、現在刻々と進行中で、そのスピードは毎年6万平方キロメートル。これは九州と四国をあわせた面積に匹敵するといわれています。

 こうなると「環境難民」が増えることになります。環境難民とは環境が破壊されてしまったがために、住んでいた土地を離れざるを得なくなった人々の事です。環境難民を生み出す原因となってしまう水問題が、干ばつ、砂漠化、などの先に挙げた『水不足』が絡んでくる問題なのです。

 難民や移民を支援する政府間組織「国際移住機関」(IOM)は2008年の報告書で、「気象災害により2050年までに2億人の避難しなければならない人、または移民が出る」と予測しました。

 しかし、環境難民の支援に関しては厳しい状況が続いています。

 環境難民は、戦争や突発的に発生する津波やハリケーンなどの自然災害による難民と、居住地を追われた点では変わりませんが、ゆっくりとした環境の変化による影響を受けていることもあって支援は少ないですし、「難民」としても認知されないため、支援を受けることができない状況もあります。