人類が環境に与えるダメージを減らすうえで最も有効なアクションは肉と乳製品の消費をやめること

 

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「人類が環境に与えるダメージを減らすうえで、最も有効なアクションは、肉類と乳製品の消費をやめること」

 こんな趣旨の論文“Reducing food’s environmental impacts through producers and consumers”(オックスフォード大学とスイスの研究機関LCA Research Group)が、「サイエンス」誌に掲載されました。

 上の論文の要旨を簡単にまとめます。

 研究チームは、世界の4万近い農場で、水の使用量や温室効果ガスの排出量を調べました。

 食品を100グラム生産する過程で生じる、温室効果ガスの排出量は下記のようになっています(単位はキログラム)。

 牛肉 :50

 チーズ:11

 鶏肉 :5.7

 豆腐 :2

 人類が肉食をやめると、地球上の多くの農地を、自然の状態に戻すことができます。研究チームは肉類と乳製品の全面禁止が現実的とはいえないものの、みんなが少しずつ消費を減らすだけで効果が得られると述べています。

 牛肉生産には非常に多くの水も使用します。

 私は「水がなくなる日」(産業編集センター)の中で、「焼肉屋 70日分の水をペロリ」と表現しました。

 

 

 牛肉1キロを育てるには、エサを育てる水を含めると、2万600リットルが必要です。日本人の平均的な1日の水使用量は300リットルとされるので、67日分の水がかかっています。

 環境負荷の高い牛肉などの生産・販売・消費は、今後何らかのルールの改変が起きるかもしれません。

 そのときどんな選択肢があるかといえば、

1)肉食をやめる

2)畜産にかかる水使用量を減らす

ではないでしょうか。

1)は肉に変わるタンパク源が必要になります。

2)については、

 2-1)飼料生産にかかる水使用量を減らす

 2-2)人工的な飼料をつかって畜産が行われる

 2-3)人工肉が普及する

が行われるではないかと思います。

 なかでも肉の安定生産・供給ということだけを考えれば、2-3)人工肉が普及するが最も可能性が高いと思われます。

 最近、ウシの体性幹細胞から、細胞培養により筋肉組織を育てて人工肉を作る技術が開発されました。

 2013年にウシの人工肉が初めて公開されたときは、ハンバーガーのパティサイズの肉を作るのに32万5千ドルかかりましたが、現在は11ドルに下がっています。

 今後、価格がより低下すれば実用化は進み、需要拡大とともにさらに価格が下がっていくでしょう。

 気候変動時代に「安くて安定的に肉を食べ続ける」ことを望むなら、私たちは人工肉という選択をしてしまうのではないでしょうか。 

 これに対してはいろいろな意見があるでしょう。

 そうまでして肉を食べたいとは思わない、食の安全という面で大いに不安があるという反対・慎重派。

 安くて安定的に肉を食べられるならこんなにすばらしいことはない、人工肉のほうがおいしい肉をつくることが可能だ、家畜の病気のことを考えると人工肉のほうが安全である、動物愛護の面からも人工肉のほうがよい、という賛成派。

 あなたは、どう考えますか?

 ただ、もし人工肉の普及がはじまると自然肉の生産・販売・消費には巨大食品産業から大きな圧力がかかるでしょう。それは食の安全という観点だったり、動物愛護という観点だったりするでしょう。