<水の科学25>地球温暖化と気候変動

地球温暖化が水に与える影響

 水(水蒸気)は大気中に1%程度しか含まれていないのですが、そんなわずかな量でも気象に与える影響はとても大きいのです。

 水は蒸発するとき、周囲から多くの熱を奪います。また逆に、水蒸気が冷却されると多くの水になります。状態を変えるときに熱(「潜熱」と呼ばれる)の出入りがあります。この熱の出入りによって、温められた水蒸気は上昇し、冷却された水蒸気は下降します。水蒸気量の変化が気圧の変化をもたらすのです。

 地球温暖化は水循環のバランスを崩し、水不足や洪水を加速させます。過去100 年間で、地球の表面温度は0.74℃ 上昇しました。このうち1971 年から2000 年の30 年のあいだに0.6℃上がりました。

 ヒマラヤでは、乾期に雪が少なく、雨期に雪が多いのが普通でしたが、10 年前から乾期にも雪が降るようになり、数年前からは雨に変わりました。氷河は解けて湖となってたまり、それが決壊して大洪水を引き起こします。そのたびに複数の集落が流されています。

 「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5 次評価報告書」によると、今世紀末までに、世界の平均気温は0.3 〜4.8℃上昇します。

 地球温暖化は防止する段階にはありません。すでに変わってしまった環境にいかに適応していくかを考えるフェーズに入りました。温暖化を防止するための活動は継続しながら、温暖化してしまった地球にいかに適応するかを考えなくてはなりません。

 

 気候変動によって起こる水不足と災害

 地球温暖化は水循環のバランスを崩します。海水の温度が上がると海面から水の蒸発がさかんになります。水は気温が高いほど早く蒸発します。また、海上の大気の温度が上がると、空気中に含むことのできる水蒸気の量が増え、湿度が高くなります。湿度が高くなると雨が降りやすくなります。

 一方、水の少ない地域では、温度上昇の影響で蒸発がよりさかんになり、水不足がひどくなります。もともと乾燥している地域で降水量が減り、さらに乾燥がすすみ、水不足や干ばつが起こりやすくなります。

 反対にもともと雨の多い地域では、降水量や川を流れる水の量が増えると予測されています。また、巨大なサイクロン、洪水や高潮などが頻繁に起こり、生命や自然環境が危険にさらされる可能性が高まります。

 地球温暖化の影響の1 つ目は、海水面の上昇です。IPCC 第5 次評価報告書によると、今世紀末までに、海面の水位は、世界平均で0.26 〜0.82m 上昇します。

 満潮時に海面より地面の標高が低くなる「0 m地帯」は、東京や名古屋、大阪などの大都市部に広がっており、海面上昇の影響を強く受けることになるでしょう。

 2 つ目に、気温が上昇すると、水の循環のスピードが早くなって、水不足や洪水の被害が増えます。

 ヨーロッパで は、2013 年の大洪水で120 億ユーロ、日本円で約1.7 兆円の損害が出ました。このレベルの洪水の頻度が、2050 年までに1.5 倍になるとの予測があります。ヨーロッパでは洪水に備え、大規模な予算を組み始めています。

 

「通読できてよくわかる水の科学」(橋本淳司/ベレ出版)より