企業の水リスク(3)水のない場所では、生産活動ができない

生産拠点の水は大丈夫?

 企業のあらゆる商品は水に支えられています。製品をつくるときにも、サービスにも水がかかっています。

 反対にいえば、水のないところでは生産活動はできません。

 たとえば、工場の立地です。

 あなたの会社の工場はどこにあるでしょうか。もし水の少ないところ、汚れた水しかないところにあるとしたら、工場での生産活動に黄色信号が灯っていることになります。

 あなたの会社は、どういう基準で工場の立地を決めていますか。多くの場合、人件費の安さ、消費地への近さなどが選定の基準となっているではありませんか。

 では、水のない地域に工場をつくったらどうなるでしょう。水を確保できなければ、生産活動はできなくなるでしょう。

生産活動のストップする地域

 多くの日本企業が進出しているアジアでは、約8割の国で、水をめぐる環境が厳しくなっています。

 アジア開発銀行2013年にこんな調査をしました。

 アジア・太平洋の49カ国・地域を対象に、生活用水、工業・農業用水、都市インフラ、河川環境、災害耐性について5点満点で評価し、指数化しました。

 その結果、インドや中国など37カ国・地域で2点以下でした。アジア開発銀行は、これらの国について「水の安全保障が危機に直面している」と指摘しています。

 チベット高原はアジアの給水塔と呼ばれます。

アジアの主な河川が、ここに流れを発しています。ところが気候変動によって、チベット高原の永久凍土が融けはじめました。雨が減り、湿原が減り、湿原を水源とする川の水量も減りました。

 そして川沿いに暮らすおよそ30億人の生活に影響を与えはじめたのです。

 チベット高原の氷河は、中国とインドという二大人口大国の命綱です。

 そのほかにもバングラデシュ、ミャンマー、ブータン、ネパール、カンボジア、パキスタン、ラオス、ベトナムといった国の水源になっています。

 これらの国の人口を合わせると、地球全体の約47%になります。地球人のほぼ半分がこの地域に暮らし、その人たちの生命の水源は、急速に涸れはじめています。

 水不足の地域に生産拠点があると、生産活動がストップする可能性があります。

 生産拠点を海外へと移転する日本企業が増えていますが、移転先には水リスクの高い地域が多く含まれています。水をたくさんつかう産業はとくに注意が必要です。

 水不足が深刻になる中国や東南アジアでは、日本企業や欧米企業の製造拠点が多数あります。長期的視野に立って考えると、水不足によってどの企業の存続は認め、どの企業は撤退を要請するかといった議論が、この地域で起こる可能性が高いのです。日本企業と欧米企業のあいだで生存競争が繰り広げられるでしょう。

参考資料:「いちばんわかる企業の水リスク」(橋本淳司/誠文堂新光社)