「生活と環境」に寄稿「日本の地下水の未来」

橋本淳司(水ジャーナリスト、当WEBマガジン編集長)が「生活と環境」(発行:一般財団法人日本環境衛生センター、2019年2月1日号)に寄稿しました。特集テーマは「地下水を未来へつなぐ」。そのうちの1つとして「日本の地下水の未来」という記事を書きました。概要は以下のとおりです。

1 日本の水は汲み放題

民法に「土地の所有権はその上下に及ぶ」と規定され、土地所有者は自由に地下水を利用できる。そうしたなか、外国資本による土地買収が進む。『アジア太平洋不動産投資ガイド』に「アジア太平洋地域で不動産投資に外資規制が皆無なのは日本だけ」と紹介されるように、日本の土地は外国人であっても目的を問わず「買収」「利用」「転売」できる。諸外国は外国人の土地所有に対し防衛策を尽くし、国益を損なう土地は売らないという視点で法律ができている。一方、日本は自由貿易、規制緩和こそすべてで、森林、水源地、農地が二束三文で売られる。

2 未来思考で地下水ルールをつくる

地下水に関するルールをつくるのは簡単ではない。理由の1つは、地下水が目に見えないために関心をもちにくい。そのために開かれた議論ができない。もう1つの理由は、既存の地下水利用者が不利益を被ると感じてルールづくりそのものに反対すること。こうした状況を打開するには、地域の地下水の現状とルール策定の意義を共有することが大切だ。

3 どのようなルールがよいか

国法について言えば、2014年、健全な水循環を目的とする「水循環基本法」が成立した。この法律によって、水は「国民共有の貴重な財産」と位置付けられている。ただ、この法律は理念法であるため、今後は地下水についての法律が必要だ。法律では地下水が地域の共有財産であることを明記すべきだろう。一方で国は大枠を定めるだけに止め、具体的なルールは地域の環境に応じてつくるべきだろう。国が画一的に管理するのではなく、地域のものとして行政、企業、市民が協力して水を育み、活用するしくみがよい。

4 保全することで企業イメージを高める

あらゆる水利用者にとって重要なのは、水の流れを面的に捉えることだ。現在、多くの企業は水リスクを点で考えている。取水ポイントでの水量と水質、排水ポイントでの水質への意識は高いが、その水がどこから来てどこへ流れていくかという意識は薄い。大量の水を使用しながら、その水をどこから汲み上げているかがわからないなど、水の流れを意識していないとリスク認識は甘くなる。地域とのコミュニケーションを大切にしながら、水についての情報共有を図り、保全しながら活用していくことが、地域および企業の持続性につながる。自社のつかっている水がどこから流れてきて、どこへ流れていくかを把握するとよい。企業にとってはリスクの早期察知だけでなく、企業活動への対外的理解の促進、ブランドイメージの向上、地域貢献上のモチベーションアップなどさまざまなメリットが生まれる。

5 市民の水リテラシーの向上

市民が地域の水に関心をもつことも大切だ。水に関するルール作りが開かれたものになるし、行政や企業の水への取り組みに関心をもてるようになる。