<水の科学12>原子力に利用される重水

 水をつくっている水分子1個は、水素原子2個と酸素原子1個からできています。

 だから水をH2O と表わします。

 しかし例外があります。

 一般的には、水素は質量1、酸素は質量16 ですが、自然界にはわずかながら、質量2 の重水素、質量17、質量18 の重酸素と呼ばれる同位体が存在します。

 そのためそれらの化合によって生ずる水にも多数の分子種があります。

 一般的なH2O を軽水、それ以外のものは一括して重水と呼びます。

 ふつう重水と呼ぶ場合、純粋な形で取り出され性質がよく研究されているD2O のことを指します。重水は自然界には100 万分の3%しか存在しません。

 重水は軽水に比べて水素結合が強く、融点(3.82℃)、沸点(101.4℃)、最大密度温度(11.6℃)が高い。

 現在、重水は原子炉の減速材として利用されています。

 核分裂反応のときに放出される中性子の速度を減速し、次の核分裂反応を起きやすくするために使われています。

 重水は生物にとっては有害です。重水は、物質の溶解度、電気伝導度、電離度などの物性や反応速度が軽水とは異なります。

 重水は軽水に比べ水素結合が強い。そのため生体高分子との相互作用が強くなるため、細胞内の生体反応や細胞膜を通過する移動速度が遅くなり、生理作用が抑制されると考えられています。

 ネズミの飲み水15% の重水にした場合では有意な差は現われませんでしたが、30%の重水にすると死にました。カエルの筋肉は100% の重水中では収縮せず、バクテリアも100%の重水中では増殖が遅くなります。

 

「通読できてよくわかる水の科学」(橋本淳司/ベレ出版)より