水危機のインド 国の政策、地域の政策

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 インドに滞在中、水に関するニュースを頻繁に聞いた。

 なかでも大きなものは、インドが過去最悪の水資源危機に直面しているというものだ。

 インド政府の政策立案機関「NITIアーヨグ」が取りまとめたレポートには、

・約6億人が深刻な水不足に直面し、安全な水を利用できずに死亡する人は年間20万人に及ぶ。

・2030年までにインドでは水需要が供給量の2倍に達する

・インドの水の7割が汚染され、水質指数で世界122カ国・地域中120位

・30年までに人口の40%が安全な飲用水を飲めなくなる

・20年までに首都ニューデリー、ベンガルール、ハイデラバードなど21都市で地下水が枯渇し1億人が影響を受ける

などとショッキングな数字が並ぶ。

 

 今後インドは国を挙げて水問題に取り組むことになるだろう。

 とりわけ「NITIアーヨグ」は経済成長を第一に掲げるシンクタンクである。

 水問題を通じて投資を呼び込み、ビジネスにつなげていこうという考えがある。

 一方、インド北部ラダックのマトー村では、まったく別の視点の話を聞いた。

 国がグローバル化を推進するのとは逆に、村内での自給を進めたいという。

 村長のティンレスさんはマトー村出身。大学を卒業した後、ヨガ学校や旅行会社で働いていたが、10年ほど前に実家の農業を継いだ。

 その当時は収量を上げるために化学肥料や農薬も使っていたが、持続的な農業について学び、有機農業をはじめた。父親を説得するのに3年かかったそうだ。

 2011年からは村のサルパンチ(中央政府の行政代理人)になり、2014年頃からSDGsを念頭に置いた村づくりを行なってきた。

 マトー村の生活は数十年前と比べ大きく変わってきた。かつて衣類や食料の自給は当たりまえのことだった。小麦、野菜を育て、放牧している山羊や牛のミルク、チーズをタンパク源にしていた。家畜のフンをエネルギーに使い、ウールを加工して衣類を作った。

 しかし、外部から日用品が入ると何かにつけて買い物をするようになった。外部から入ってきた食べものを食べるようになると寿命が短くなったという。また、必要以上の衣服などを購入するため廃棄物が増えた。にもかかわらずラダックにはゴミ処理設備がない。

「タンスの中には着られないほどの服が入っている。でも実際にはシャツ2枚、ズボン2枚、あとは数枚の下着があればいいんじゃないか」

 さらには気候変動により、氷河が融解していることで水が得にくくなったり、植生が変わったことも農業や牧畜に影響している。

 担い手不足も深刻だ。

 農業では現金収入が得にくいことから、転職する人が増えた。教育熱は高いが、都市部の大学に進学し、村に戻ってこないケースが多い。

 そうした中で、ティンレスさんは村の自立性を高めようとしている。

 そのために大切なのは人材の育成だと考えている。

 学校でのアカデミックな学びのほかに、村の自活につながる学びや技能の習得、廃校を活躍した大人のための学びの場が必要だと考えている。

 この地にはチベット仏教が残るが、形骸化してしまっている部分もあるため、再度仏教の教えに立ち返り、村づくりに活かしていきたいという。

 私たちの生活にもとても参考になる話が聞けた。