2018年を「地下水」というキーワードで振り返る

2019年のはじめに、地下水のことを考えてみようと思います。ふだんは目に見えないものについて想像し、それを大切にしていくにはどうしたらいいか。地下水はさまざまな示唆を与えてくれます。

2018年を「地下水」というキーワードで振り、個人的に次の5つをあげました。

1 山梨県の地下水税
2 耶馬渓の崩壊
3 リニア中央新幹線
4 地下水のエネルギー利用
5 北陸での地下水位低下

それぞれの経緯などを簡単にまとめてみます。

1 山梨県の地下水税

山梨県議会政策立案特別検討会議は4月19日、県内で地下水を採取してミネラルウォーターを作るメーカーに課す「ミネラルウォーター税」を導入するよう、後藤知事に提言しました。「山梨県は自主財源比率が低いため、新たな財源の確保にもつながる」ということらしいです。

経済産業省や日本ミネラルウォーター協会によると、17年の山梨県内のミネラルウォーター生産量は約142万7000キロ・リットル。生産量は全国1位で、シェア(市場占有率)は5割近い。新税は、採取する地下水1リットルあたり1円を想定し、年間14億円の税収が見込まれるといいます。

ただ、この提案は過去にダメになったことがあります。地下水は工場や農家なども採取しているため、ミネラルウォーターのメーカーだけに課税するのは公平性に問題があるでしょう。

2 耶馬渓の崩壊

大分県中津市耶馬渓町で4月に土砂崩落が発生し、6人が犠牲になりました。県が立ち上げた専門家の委員会は、過去に崩れた部分に地下水が入り込み、地すべりが起こったとする報告をまとめました。

現場は幅約160メートル、長さ約220メートルにわたって崩れたが、事前に降雨や地震などはなく、突然の発生でした。

3 リニア工事と地下水

静岡県ではトンネル工事に伴って湧き出す地下水の対応を巡ってJR東海と協議が続き、沿線の7都県で唯一、本体工事が未着手です。

4 地下水のエネルギー利用

大阪の産官学プロジェクトが地下水を使った独自の冷暖房システムを開発。一般的な冷暖房に比べてエネルギーを35%削減でき、ヒートアイランド現象の緩和にも役立つとしています。

地下水の温度は一定で、夏は外気より冷たく、冬は外気より温かいのです。新システムは地下水を多く含む地層(帯水層)から、直径約60センチ、深さ約60メートルの井戸を通じて水をくみ上げ、建物の中の熱交換装置の中を循環させて温度を調整します。

夏は冷水をくみ上げて地上で熱を吸収させ、地下の帯水層に戻す。冬は、夏に熱を蓄えた帯水層の水をくみ上げて地上で熱を放出させ、地下に戻すというしくみです。

5 北陸での地下水位低下

富山県は、地下水位が低下した際、注意報や警報を発令する取り組みを12月19日から始めました。

その理由は、昨シーズンの大雪で消雪設備の稼働が増え、地下水の取水量が増えた結果、富山市内の地下水位が30年で最も低い水準にまで下がってしまったのです。注意報や警報を発令した場合、県は工業用水に地下水を使っている企業などに節水を呼びかけることになります。

 

さて、この5つから何が必要かと考えてみました。

1つには、地下水について知ることでしょう。どこを、それくらいの量の地下水が流れているのか、地下水が増減する理由は何か、ということです。

山梨県は税金という形を考えていますが、企業に地下水の見える化や保全活動に協力してもらうという方法もあるでしょう。

耶馬渓の崩壊、リニアによる水涸れ懸念、北陸での地下水位低下、いずれも地下水の見える化を図ることが対策を講じる最初の一歩となります。

もう1つは、地下水の保全や活用に関するルールが必要だということです。

現在、地下水にはルールがありません。民法に「土地の所有権はその上下におよび」と規定されていることから、土地所有者の権利は地下水におよぶととらえることができます。その一方で、水循環基本法には「水は国民共有の貴重な財産である」とされています。

ただ、地下水を点ではなく、どこから、どのように流れてくるかを考えて、森林や田んぼなどからの水の浸透(涵養)も考慮した、面で地下水を保全し活用するルールが必要でしょう。

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