水道経営危機で見直される緩速ろ過

(※メールマガジン「橋本淳司の「水」ニュース・レポート」のバックナンバーを掲載しています。ご登録いただきますと最新号がお手元のPCやスマートフォンに届きます)


水道経営危機で緩速ろ過が見直されているという話を、いくつかの事例ともにお伝えします。

 岩手中部水道企業団は近隣の水道事業者と統合を行いました。

 もともと用水を供給していた旧企業団、北上市、花巻市、紫波町の4つの水道事業を統合し、平成26年4月1日に、新組織で事業を開始しました。

 統合から3年、縮小政策を着々と行い、浄水場を5つ廃止し、また、老朽化した基幹浄水場も2つ更新しました。これによって数10億円単位の将来投資が削減できました。

 企業団では当初、「小規模施設は原則廃止。基幹浄水施設や送水幹線を整備し、施設の統廃合を行うこと」が基本路線でしたが、小規模でも効率よい施設は存続させることになりました。

 現在、小又地区で「上向流式粗ろ過」と「緩速ろ過」を組み合わせた小型施設の実証実験がはじまっています。

 岩手中部水道事業団で、緩速ろ過の検討をはじめた理由は、

1)施設の長寿命化が図れ、生涯コストが安価

2)粗ろ過と組み合わせることで緩速ろ過が苦手とする濁度上昇に対応可能

3)維持管理が容易なため、地域住民自ら水道を管理することが可能

などが理由とされています。

 実験に先立ち、岡山県津山市の小規模浄水施設の視察も行いました。

 ここには水道未普及地域が約200戸ありました。

 市街地からは地理的に遠く、これまでは清浄で豊富な沢水を住民が簡易処理して使用していました。

 しかし、安定して水が得られないという課題が出てきました。理由はたとえば雨の降り方が変わって水が濁りやすくなった、野生動物の糞尿などが原因で水質が悪くなった、山が荒れ、保水力が低下し水の量が不安定になった、などです。

 こうした課題を津山市の水道事業として解決するのは財政的に厳しく、住民による小規模水道が動き出しました。維持管理を地元組合が行うため、

1)できるだけ構造が単純で管理の手間が少ない

2)ポンプ等の動力を使用しないで自然流下とする

3)できる限り薬品類を必要としない施設とする

などが考慮され、「上向流式粗ろ過」と「緩速ろ過」を組み合わせた装置が採用されました。

 こうしたケースを参考に、岩手でも2017年9月に実証実験がはじまりました。

 高台に水量豊富な水源があり、そこに小規模浄水施設が稼働すれば、下流にある二つの古くなった施設を閉鎖でき、さらなる縮小が可能になります。この設備は、コンクリート層と砂利があればよく、地元の業者でも施工できます。

 緩速ろ過はろ過池の砂のかき取りのための人件費が高いとされます。

 盛岡市では、かつては人夫さんが毎月、手作業でろ過池のかき取りを行っており、毎月人件費がかかっていました。

 3年前、かき取りをする機械を購入し効率化を図り、人手を減らしました。

 さらに最近ではシルバー人材センターと契約し、かき取り業務を委託しています。シルバー人材でも業務者は固定しているので技術的には安定しています。

 じつは、かき取りは毎月行う必要はありません。地域の原水の質にもよりますが、盛岡市では最長四か月程度はかき取りしなくても正常にろ過できています。岡山県総社市にある総社浄水場は高梁川の伏流水を取水し緩速ろ過を行っていますが、原水が清浄なため8か月程度かき取りしなくてもよいのです。

 盛岡市でさまざまな要素を100年スパンで比較した場合、緩速ろ過は急速ろ過の2分の1にコストが抑えられるとわかりました。

 さらに、濁度対策として粗ろ過が検討されています。

 盛岡の場合、通常の原水濁度はゼロに近いのですが、雨が降ると濁度が上昇し、濁度10以上で取水停止になります。濁度10以上の日数は年間30~40日あります。

 緩速ろ過にした場合、クリアしなくてはならない課題です。対処法として粗ろ過での前処理を考え実験を開始しています。

 緩速ろ過は小さな水道を救う選択肢になるでしょう。