日本も水をめぐる争いの渦中にある

「あればあったでただ同然。無ければこれほど高価なものはない」

というアラブの言い伝えは、水の貴重さを表している。

そして、水が不足したとき、最悪の場合、水のうばいあいがおこる。

「20世紀は領土紛争の時代だったが、21世紀は水紛争の時代になるだろう」
(セラゲルディン元世界銀行副総裁 1995年)

「各国の熾烈な水資源獲得競争により、水の問題が暴力的な紛争の火種を内包している」
(アナン国連前事務総長 2002年)

「水をめぐる対立は、いつ戦争に発展するかわからない」
(潘基文国事務総長 2007年)

この10数年の間、多くの要人が水争いの危機を叫んできたが、具体的かつ適切な指針は示されず、事態はより深刻になっている。

世界には複数の国またがって流れる「国際河川」が約260本ある。

自国に国際河川が流れる国は、約140か国あり、水のうばいあいの多くは、こうした国際河川の流域でおきている。

国際河川の上流にある国がたくさんの水を使うと、下流にある国の水の量は減ってしまう。

上流の国がおこなう農業や工業によって川の水が汚染されると、その水は国境をこえて下流の国まで流れてくる。

その結果、下流の国の使える水は少なくなる。

目に見える河川や湖沼の水はもちろん、目に見えない地下水にも影響がでる。

これが水をめぐる争いの原因になる。

日本人はまわりを海に囲まれた島国で、国際河川はない。

そのため、水を使うときに、他国との関係を気にする必要がない。

さらに、雨に恵まれているため、水が豊富である。

しかし、日本は完全に水を自給できているわけではない。

それどころか、たくさんのペットボトル水や食料を外国から輸入している。

食料を輸入するということは、食料をつくるのに使ったぶんだけ水を輸入していることと同じである。

もし、その食料をつくるための水が国際河川の水であれば、日本は国際河川の水を使っているということになる。

日本も水をめぐる争いと無関係ではないわけだ。

私たちも、水をめぐって世界でおきている争いについて学び、今後、解決に向けて役割をになう必要がある。

 

(『世界と日本の水問題』(橋本淳司著・文研出版)より引用)