新しい”社会のモノサシ”SDGsと水 橋本淳司

新しい目標は「持続可能」がテーマ

「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals =SDGs)は国連が定める2016~2030年の開発や環境分野の目標だ。

以前の「ミレニアム開発目標(MDGs)」は2000年に定められ、主に開発途上国が抱える問題をいかに解決するか、いかに先進国がサポートするかが定められていた。

新しい目標は「持続可能」がテーマであり先進国、発展途上国が共有するもので、もちろん日本も対象になっている。

私たちの社会もこの目標にそって「持続可能」にシフトしていくことになる。

SDGsで水といえば、「安全な水とトイレを世界中に」(目標6)

じつはMDGsでも「安全な飲料水と衛生施設を利用できない人口の割合を半減させる」という数値目標があった。目標はクリアできたが、それでもいまだに世界人口の10分の1が安全な飲み水へアクセスできない。

なぜ目標が達成されたかといえば、人口の多い中国、インドで飲料水の供給の改善が進んだためで、サブサハラ・アフリカでは改善されていないばかりか、悪化したところもある。『世界水発展報告書』(国連、2014年)では、「現在、世界の7億6800万人が改善された水源にアクセスできていない。2035年には、水に対する権利が満たされない人は35億人になる」としている。

一方の、衛生については、MDGsのなかで最も進捗が遅れている目標と言われており、引き続き加えられた。2011年のインド国勢調査では、国内2億4,660万世帯のうち、戸別トイレ設備を有する世帯は46.9%。同年に携帯電話を所有する世帯は53.2%だった。

インドのモディ首相は「母や姉妹の尊厳を守るためにトイレを」と述べ、2019年までに、全世帯にトイレを普及させることを目指す。しかし、男性のなかには「野外で事足りるのに金をかけるのは無駄」と考える人もいるし、女性が恥ずかしさと身の危険に震えながら野外排泄するケースもある。

ほかの目標と水との深い関係

そのほかの目標も水と関連している。それは水が私たちの生活に必要不可欠であることを示す。

 「貧困をなくす」(目標1)には水が必要だ。貧困の原因は水がないことにはじまる。

発展途上国の水不足の地域では、水汲みに多くの時間を費やさなくてはならないので働くことができない。水のないところでは農業など生産活動もできない。そして貧困であるがゆえに簡単な水インフラも得られない。このような負のスパイラルに陥る。

 「飢餓をゼロに」(目標2)は水をどのように利用するかがカギを握っている。

なぜなら世界の淡水資源の7割は食料生産につかわれており、水不足が進行すると食料生産はむずかしくなる。

この問題に日本は深く関係している。

日本は海外の水に依存して成り立っている国だからだ。私たちの食卓に並ぶ食料をつくっている水はほとんど他国の水。企業が生産につかう原材料も他国の水でつくられる。

しかしながら主な輸入元であるアメリカ、中国、オーストラリアでは干ばつが発生している。今後は調達先の水について考える必要があるだろう。不足だけでなく汚染の問題もある。

農業生産につかわれる農薬や肥料はときに水を汚す。たとえば、地下水汚染を引き起こす汚染物質の代表は硝酸・亜硝酸性窒素だが、これは農地で過剰に用いた窒素肥料や畜産の排水、家庭排水などから供給された窒素化合物が、土壌中で分解されてできる。

 「すべての人に健康と福祉を」(目標3)に水は欠かせない。

周囲に不衛生な水しかないと、水が媒介する病気にかかるリスクが高くなる。

実際、水が媒介する病気によって、毎日約2000人の子どもが命を落としている。5歳以下の子どもの主な死亡要因は下痢だが、90%近くは水と衛生の環境が悪いことで発生する。逆に言えば、水と衛生がしっかりしていれば、命を落とすことはなかった。健康な生活にとって水は欠かせない。

 「質の高い教育をみんなに」(目標4)「ジェンダー平等を実現しよう(目標5)も水と関係している。

発展途上国では女性や少女が毎日水くみに行くケースがある。家と水源を数時間かけて往復するため、仕事や学校へ行く時間がなくなる。授業についていけず中退してしまうこともある。

エネルギーと水の負のスパイラル

 「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」(目標7)はどうか。

じつは現在の水供給には大量のエネルギーが使われている。

古代から中世までの水道は高いところで取水し、土地の傾斜を利用して配水されていた。土地の高低差による位置エネルギーを利用した排水。ところが産業革命期に、蒸気機関が発明されるとポンプでの揚水・導水が可能になり、水道網は低地から高地へ、また水源から遠く離れたところまで伸びた。同時に汚れた水を浄化する技術も生まれる。浄水方法は、より高度で複雑になり、それとともにエネルギー使用量が増えた。

国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、世界のエネルギー生産で消費される水資源量が、2035年までに倍増する見込み。とくに石炭・火力発電とバイオ燃料生産が増え、水資源が大きく圧迫される。

現行の方法を続けた場合、2035年にはエネルギー生産に必要な水資源の年間消費量は、現在の660億トンから1350億トンに倍増すると予測。水をつくるにもエネルギーが必要であり、エネルギーをつくるにも水が必要ということは、私たちの社会はエネルギーと水を大量消費せざるをえない連鎖のなかにあるということ。

この連鎖を断ち切ることが早急な課題だ。

エネルギーも水も不足するとの予測のなかで、エネルギーを増やそうとすると水を大量につかい、水を増やそうとするとエネルギーを大量につかうというジレンマをいかに克服するかを考えていかなければならない。

気候変動にいかに対処するのか

次に「住み続けられるまちづくりを」(目標11)、「気候変動に具体的な対策を」(目標13)について考えてみたい。

「世界リスク報告書2016年版」において、世界171か国の自然災害(地震、台風、洪水、干ばつ、海面上昇の5種類)の自然災害と社会的脆弱性を分析し、それぞれの国における災害リスクを評価したところ日本は17位。

自然災害への対処能力はトップクラスに評価されているが、地震や水害に見舞われることが多い(4位)ため、被害を受けるリスクはかなり高い。

気候変動は「水のすがた」を変える。水の多い地域では、空気中の水蒸気の量が増え、災害につながる可能性のある、1日当たり100ミリ以上の雨の降る日が増える。水の少ない場所では土に含まれている水分が蒸発し、さらに乾燥がすすみ、水不足や干ばつが起こりやすくなる。

こうしたなかでまちづくりの考え方を根本的に変える必要がある。

たとえば治水について考えてみよう。

これまでの治水は河川区域に注目して行われてきた。

水をコンクリートで制圧しようとした結果、洪水流量がかえって増え、さらに大規模な治水を行ってきた。この考え方だけで「安全な暮らし」を追求しようとすると、限りなく堤防を高くし、ダムをつくり続けなければならし、コスト面でも難しい。

解決へのヒントは3つある。

1つ目は「水を集めるのではなく分散させる」。

現在の洪水対策が目指しているのは、降った雨をなるべく早く川に集め、海まで流すという考え方。川の上流にダムを建設し、下水道を整備し、長く高い堤防を築いた。しかし、田んぼや雨水貯留などによって水を分散させて水の勢いを弱め、あふれるのを防ぐことはできないか。

新潟大学農学部吉川夏樹准教授は、2011年7月の新潟県中越地方豪雨時の田んぼダムの効果を検証。総面積3600ヘクタールの水田群は、ピーク時167万トンの雨水を広く薄くため、浸水被害を軽減させた。

2つ目は「あふれることを前提する」。

現在は川の水を川から出さないことを目指す。ところが想定を超える豪雨が各地で降るようになり、人の力で川の水を完全にコントロールすることが難しくなり、河川が決壊したり溢れたりする被害が目立つようになってきた。古の治水技術の1つ「霞堤」は、洪水が起こると水は堤防の外へ流れ出すが、ゆっくり流れ出るため、被害を軽減させることができる。

洪水を治めることが不可能であることを前提に、被害を最小限にくいとめる仕組み。3つ目は「流域全体を使って対策を考える」。

流域全体を見渡し、大きな視点で対策を考えること。

水は誰のものか

「人や国の不平等をなくそう」(目標10)はとても深刻な問題だ。

2030年には、世界の水の需要量が、供給量を40%上回るという予測がある。これは机上計算だから成り立つことで、実際には使用する水が使用できる水を上回ることはない。

対策せずにそのときを迎えたら、水の奪い合いが起きるだろう。

たとえば、中国はメコン川の開発に力をいれ、雲南省に次々と大型ダムを建設している。ダム建設は、メコン川の下流域に大きな影響を与えている。タイ・ラオス国境地帯では漁獲量が激減した。

タイの穀倉地帯では水不足が深刻になり、農業と工業で水の奪い合いが起きている。下流の国々では中国への不満が広がっている。国際河川の上流にある強国が思いのままに水を使うと、下流の国に大きなストレスを与える。これが水紛争の原因となるのだが、国際河川の水をどう使うかというルールはない。

 「パートナーシップで」水問題を解決するという「目標を達成」する必要がある。

企業と市民の間の争いが起きることもある。地下水を使う企業と地元住民とのトラブルは多発している。コカ・コーラ社のインド・ケーララ州の工場は、取水量1日当たり100万〜150万リットルと大規模で、州内では日常的に水不足に陥るように。

住民は「水は生まれながらに持っている権利」と抗議、コカ・コーラ社は「工場で使う地下水は村の井戸とは水脈が違う」と主張。住民の不買運動に発展した。

こうしたケースでは、ペットボトル水メーカーが注目される傾向にあるが、実際にはすべての企業が水をつかっている。企業のあらゆる商品は水に支えられている。製品をつくるときにも、サービスにも水がかかっている。反対にいえば、水のないところでは生産活動はできない。

今後の水不足に備え、水をいかに保全し活用するかというルールが必要だ。

海や森をいかに守るか

「海の豊かさを守ろう」(目標14)も深刻な問題だ。

環境省の研究班は2014年、温暖化の予測を公表した。

このまま温室効果ガスが増えた場合、今世紀末の平均気温は20世紀に比べて3.5~6.4℃上昇、海水面は60~63センチ上昇、最悪の場合、砂浜は83~85%消失するとされている。

日本の沿岸部には、満潮時に海面より地面の標高が低くなる土地「0メートル地帯」がある。その面積は8万6100ヘクタール。こうしたところは海面上昇の影響を受け、大雨のときなどに大きな被害が出る可能性があります。「0メートル地帯」は東京、名古屋、大阪など大都市部にも広がっているので警戒が必要だ。

海面が1メートル上昇すると、大阪では、北西部から堺市にかけて海岸線がほぼ水没する。東京でも、江東区、墨田区、江戸川区、葛飾区のほぼ全域が影響を受ける。40センチの上昇で、沖に出てい120メートル分の干潟が消滅し、そこをすみかにしている生物の産卵や子育て、そこをえさ場にしている渡り鳥にも影響が出るといわれている。

また、海は大気中の二酸化炭素が大量に溶け込むと酸性化する。

海洋酸性化が進むと、海洋の二酸化炭素を吸収する能力が弱くなり、温暖化は加速。また、プランクトン、サンゴ、貝類や甲殻類など、さまざまな海洋生物の成長や繁殖に影響が及ぶ。植物プランクトンの円石藻、原生動物の有孔虫、貝類、ウニなどの棘皮動物、熱帯や亜熱帯に分布するサンゴなどは、海水中のカルシウムイオンと炭酸イオンから炭酸カルシウムの骨格や殻をつくる。

海洋酸性化が進み海水中の水素イオンが増えると殻をつくるのが難しくなる。

さらにペットボトルやレジ袋、包装容器などプラスチック生産量は世界で年間約3億1100万トン。

そのうちおよそ1億トンがゴミとなり、少なくとも800万トンが海に流出。マイクロプラスチックは大きさ5ミリ以下の微細なプラスチック片。

陸地で捨てられたレジ袋やペットボトルなどが川に流れ、海に至る過程でつくられる。東京湾で捕獲したカタクチイワシの8割近くからマイクロプラスチックが見つかった(東京農工大や京大の調査)。

プラスチックは有害物質を吸着しやすい。食物連鎖で、より大きな魚や海鳥、クジラや人間などのほ乳類に悪影響が出る可能性が指摘されている。

 「陸の豊かさを守ろう」(目標15)では、森林の持続的な管理に注目したい。

現在、日本人が1年間につかう木材の容積は約1億トンだが、そのうちの8割を外国産に頼っている。

自給率は食料よりも低い。1964年の木材輸入自由化以降、価格の安い外国産材が市場にあふれ、生産コストや人件費がかかる国産材の需要は急速に減少した。需要と供給のバランスが崩れたために、森林は放置され、荒廃している。荒廃した森は保水力を失う。

日本の木材自給率は2割程度しかないということは、机、テーブル、本棚などは、ほとんどが輸入された木材でつくられたもの。日本は世界各国が輸出する丸太の半分近くを買い、海外では日本向けに森が乱伐されるケースもある。私たちは海外での森林破壊に関与してしまった可能性が高い。

森や林というと木ばかり注目されるが、じつは光、土、水、動植物がバランスよくあって1つの「世界」をつくる。

森の土1グラム には1億の微生物がすんでいる。

森では晩秋になると木々が落葉。下草も枯れる。地面に積もった落ち葉、枯れ枝、枯れ草は、小動物や微生物のエサになって分解され、腐葉土や堆肥となって土に還っている。

多種多様な生物による驚異の連携プレーにより森の土が育まれ、その土が水を育んでいる。森の土をルーペや顕微鏡で見ると、土の一粒一粒がくっついているところと、隙間の空いたところがある。

粒と粒がくっついているところに水は溜まる。隙間の空いたところは水が入ってきても流れてしまい、代わりに空気が入る。こうして保水性と水はけという、一見相反することを見事に両立させる。

一方、放置された人工林の土は、一粒一粒がくっついて隙間がない。もともと隙間がないうえに、雨が降ったときに土に染み込んだ水が、土の粒と粒を引き寄せて隙間をつぶす。その後も雨が降るたびに土の粒と粒の間隔がどんどん狭くなり、固い土になる。こうした土は保水力も弱く、水はけも悪い。

つまり、雨が降っても土のなかに水をためることができない。森の土には雨をため、ゆっくり時間をかけて流出させる働きがある。多様な植物が生えた森では、木の根は網の目のように土の中に広がり、土や石をしっかり捕まえ、土砂崩れを防いでいる。植林したり間伐したり、森を守る活動は、洪水を防ぎ、安全なコミュニティを守ることにもつながる。

そして森で育まれた水は地下水、川となりやがては海へ出る。

昔から海の近くの森の木を切ると魚が寄り付かなくなる。

でも大切なのは海岸近くの森林だけではない。じつは上流にある森、そして森と海をつなぐ川が大切で、それが海の豊かさにつながる。

海の食物連鎖の基本は植物プランクトン。

植物プランクトンの生育には鉄分が必要だ。豊かな森ができると鉄分も豊富になり、それが川によって運ばれ、海に入る。だから日本は海から豊富な水産物が捕れる。

魚介類や海藻は森の恵みといえる。SDGsを駆け足で見てきたが、1つひとつの目標が単独に存在しているわけではなく、相互に影響を与えることがわかる。

1つの課題を解決すると別の課題も解決できることもある。SDGsをモノサシとして今後の社会をつくっていくべきだ。

 

著者:橋本淳司(aqua-sphere編集長)